万太郎の書置き

2010年9月4日土曜日

温泉街






○登場人物の紹介

竹田雷電(たけだ・らいでん)   ………… チンピラ。火曜日に落雷の超能力が使える。
月谷守(つきたに・まもる)    ………… 職業不詳。現在世界放浪中。月曜日の夜の時を操ることができる。
W・W・トミー(ダブル・ダブル・トミー)… 英語教師。水曜日に洪水を起こすことができる。


○前回までのあらすじ

組を破門されて間もない竹田はチンピラとして暮らしていた。
日常的にデーモンが襲ってくるのをなんとか生き延びている。






まさか水曜日に奇襲を仕掛けてくるとは思わなかった。というのも、既に前日の火曜日にデーモンとの一戦を交えていたからだ。
攻撃があった次の日は休戦する。いつからか、デーモンの攻撃が始まったその頃からこのサイクルは定まっていた。つまりそれはデーモンとおれたち人間との暗黙のルールだった。おれを狙った次の日には、おれに対する攻撃はしない。別の連中を標的にする。今までそういった弱々しくではあるがルールというものが人間とモンスターとの間に出来たとき、それに順応するようにおれの生活スタイルは完成していたのだ。
にもかかわらず、今回デーモンは連チャンでおれにその牙を向いた。丁度おれが、名湯百選に選ばれている地方の温泉宿で足湯に漬かっているときだった。おれがアスファルトジャングルの喧騒をすっかり忘れて夢見心地でいる最中、突如デーモンは空中から襲来し、おれの背中を鋭く恐ろしい爪で引っかいたのである。
湯におれの目の醒めるような鮮血が飛び散った。
「あぎゃァ!」
おれはパニックに陥った。一体何故だ。何故奴らは二日連チャンで襲撃してきたのだ。今まで二日連チャンで攻撃してきた日など一度たりともなかったはずだ。なんでや、なんでや。おれはつぶつぶと小さな声でなんでやを連呼しながら、足湯を飛び出て温泉街を逃げ回った。なんてことだろう。今日は水曜日。無論超能力は使えない。旅館に戻ればこういったときのために密輸した護身用のトカレフがあるのだが、絶望的なことに滞在中の旅館は逃走経路とは間逆に位置する。念のため逃走中、携帯で旅館に連絡を入れてみたが誰も出ない。なるほど、この地方の持ち前の穏やかな気質というのは本当だったのだ。悲しいことだがネットで事前に調べた情報は真実だったのだ。この地方の人間は六に電話も出ないで厨房に集結し皆で四方山に華を咲かせている。その事実を目の当たりにした時、おれは逃走しながら暗澹たる気持ちになった。おれは今、根限り走っているが、いつしか力尽き身内も居ないこの小さな温泉街に倒れ伏してしまうだろう。嗚呼、こんなことならばもう少し吉野家の牛丼を食べておけば良かった。昨日自宅で食べなかった冷蔵庫のナタデココ。肥満を気にせず全力で食べてしまえば良かった。今になってあらゆる後悔が募る。背中からはデーモンに受けた最初の一撃が、思いのほか致命傷だったようで出血が止まらない。なんてこッたいと涙を薄汚れた服の袖でなぶりながら、不図目に留まったのは小さな土産物屋。しかし通常ならば、生き死にの掛かっている現在である。土産物屋など目に入る分けがない。さすればなぜそんな俗物的な物に心奪われたかというと、何も誰かに土産を買おうなどと思ったわけではなく、そこに学生が大挙していたからである。どうやら中学生の修学旅行のようだった。その風景を見ておれは死に物狂いでその群れに駆け寄った。それはほとんど本能ともいうべき行動だった。
案の定居た。ウォーターマンのトミーだ。おれはトミーを大声で呼んだ。
「ト、トミーさん!」
トミーは学生たちに囲まれて、ゲジゲジのストラップを押し付けられていた。トミーは昆虫が何よりも嫌いなのである。トミーはこっちを見ておれの姿を確認したが、日常的に生徒にイジられているその姿をおれに見られたくないのか、すぐに視線を他所にやってしまった。おれはそのトミーの行動に酷くぶちぎれて、奴の浮気相手の名前を大声で何度も叫んだ。学生たちは何事かと一斉に此方を見た。その声を聞いた途端トミーの顔色は一瞬で修羅に変わり、一目散におれの下に飛んできて元ボクサー仕込みのリバーブローをおれの脇腹に深々と入れた。おれはゆっくりとその場に倒れこみながら薄れ行く意識の中で、トミーが学生たちに向かって「ドントウォーリー。アイ・ビリーブ。ドンウォーリー」と言うのを聞いた。
そのままおれはどうやらトミーの宿に連れて行かれたようだった。目が覚めるとおれは布団に寝ており、傷もしっかりと治療されていた。そして、そばに正座しているトミーと小林君に気がついた。この小林君というのは中学生だが英語が話せる秀才であり、なおかつ野戦医療にも長けている。出生は全くもって不明であり、おれは幾度となく密偵を送り込み彼の素性を調べようとしたが無駄だった。彼は超能力者ではないが、なぜおれとトミーの間にいるかと言うと、トミーは日本語が話せないからだ。つまり小林君は通訳の役目をしている。これは他の能力者とのコンタクトの際も同様で、つまりトミーと小林君はセットで存在しているのである。
起き上がってまずおれはトミーに対してさきほど浮気相手の名を叫んだことを詫びた。小林君はおそらくまだ童貞なのだろう、詳細を知らずとも分かるうっすらとした大人の会話の中にそこはかとなく香る男女間の桃色事情を嗅ぎ取り、少し頬を桜色に染めた。そして桜色の頬を小さく緩やかに揺らしながら、テキサス訛りの英語でそれをトミーに通訳してくれた。なぜ小林君の英語がテキサス訛りという事をおれが知っているかというと、トミーが再三、小林君がいないときにおれの耳元で、「コバヤシ、イズー、ププッ…。テキサス…」というからだった。そういうときのトミーの顔は、いつも酷く汚らわしいものだった。
トミーはおれの侘びを冷静に受け入れてくれ、おれの傷を気遣った。おれはその心遣いが嬉しかった。そして、それからおれは一通りトミーの気分を盛り上げるため、トミーの近況を聞いたり、生活感のある話題や、ちょっとしたウンチクなどを散りばめたためになる話をし、おれの今まで培ってきた美辞麗句を駆使し、どうにかトミーがおれを襲撃したデーモンの撃退に力を貸してくれるよう尽力した。
トミーの能力は水曜日に発揮される。つまり今日が絶好なのだ。もうそろそろ良い頃合だろうと思い、おれはさっそく本題を切り出した。
「ところでトミー…」
「NO!」
おれはまだ一言も小林君に通訳をしてもらってはいなかった。こういうとき、ひょっとすると実はトミーは今ではすっかり日本語が理解できており、その語感に潜む微妙な機微や空気感をも感じとっているのではないかと疑った。しかし四六時中トミーに付き添っている小林君にいくら聞いても、アノ人は全く分かっていませんよ、というばかりで一向に埒が明かないのである。
仕方がないと思い、おれは財布の中から現金を出した。旅行ということでいつもより多めに現金をもっていた。全部で二百万あった。
「これで如何か」
トミーは小林君になにやら小声で指示を出し、それを聞くと小林君は部屋を出ていった。そうしてトミーはおれの方を見ながらゆっくりと笑顔で頷いた。
それからおれたちは、おれがデーモンに襲われた足湯に戻ってきた。遠くから見てみるとよくは分からなかったが、近くまできて初めて分かった。さきほどのデーモンが足湯に漬かりながら、夢見心地で日頃の喧騒をすっかり忘れるかの如く全力でくつろいでいたのである。おれはそれを見て酷くぶちぎれ髪の毛が逆立った。明確な殺意を自覚したのである。するとトミーがおれを緩やかに制止して前に躍り出た。次の瞬間おれとトミーに小林君が浮き輪を手渡した。
トミーが天に向かって両手を広げ「モーゼダー」と叫ぶと、大地にうずめく全ての水が大きな洪水となって温泉街を飲み込んだ。おれとトミーと小林君は必死になって大洪水を浮き輪で浮かびしのいだ。
それから丸一日ほど経ったか、大方洪水は止み、後には建物の瓦礫とドザエモンが散乱していた。トミーは「だからあんまりやりたくないんだよ」と苦笑しながら小林君を通じておれに言った。
それからおれは丁寧に彼らに感謝をし、分かれた後、近所のホームセンターに行き、縄を購入した。足湯の辺りを死に物狂いで捜索すると、おれを襲ったデーモンが気絶していた。そいつの身体を縄でぐるぐる巻きに縛り、比較的被害の少なかった宿にそのデーモンを連れて泊まりなおした。
それから火曜日までをその宿で過ごし、火曜日のアラームが鳴った瞬間に、おれは鬼というよりは鬼神のごとき雷神の感じでもって、その宿もろともデーモンを消し炭にしてから家に帰った。




チューズディ・サンダー




ともあれ危機は全力で回避された。
デーモンに追い詰められもう駄目だ、ついにおれもこのまま無残に死んでしまうのか、もう一度だけつるとんたんのうどんが食べたかったな、ヴェルチ飲みたかったな、などと諦めかけたそのとき、幸運にも時計のアラームがピピピと零時を指したのだ。そう、火曜日が到来したのだ。
おれは常日頃から練習をしている。それは膨大な体力を注ぎこむ精神の修行だ。おれはいつも待っている。その瞬間を。そしてついにそのときが来たならば、おれはかならず、どんな状況であろうとその能力を発揮するのだ。例えそれが女の子とチョメチョメしているときだろうと、例え車で走っているときだろうと。例え終電がなくなって満喫でくつろいでいるときだろうと。例え自宅で寝ているときだろうと。例え深夜番組がどれほど面白かったとしても。コンビニで必死に立ち読みしていたとしても。そのほか、えとせとら・えとせとらだとしてもだ。
つまりおれは深夜零時を過ぎ、火曜日となった瞬間から鬼神となる準備をしている。その心構えを一週間常に持続させているのである。と、実際このエピソードだけでも超能力者が一体どれほど大変かということが分かるはずだ。いや分かってもらえないとしても、そのことは実はさして重要ではないのだ。大事なのはおれは何としても生涯を生きぬきたいと言うことだ。
おれはつまり超能力が使えるのである。念力でカミナリを落とせるのだ。それはとても大規模なカミナリだ。自分で言うのもなんだがそれはもうものすごい勢いのカミナリを落とすことが出来る。おれがひとたびこの指先に念をこめれば、「サンダー!」と大きな声をあげながら指さした方向に落雷することができる。勿論精度はバツグンだ。
以前休みの日に公道でひったくりに遭って、オシャレなセカンドバッグを持っていかれそうになったとき、丁度火曜日だったこともあり怒りにまかせて犯人に落雷した。近づいてみると犯人は真っ黒焦げになって既に絶命していたが、セカンドバッグに入っていた現金100万円もチリと化していたのだ。あの時のおれの絶望感ったらなかった。おれはそのとき怒りを静めるため、事務所にもどり100万を集金した舎弟共を一人残らず真っ黒焦げにしてやった。俗に言う八つ当たりというやつだ。
おれが超能力を発揮できるのは火曜日だけである。これほど面倒なことはない。よくテレビアニメなどで超能力を自在に操ったりしているけれども現実はそう万能には行かないのである。アキラに出てくるような一度超能力を発揮するのも鼻血ブー状態が実はリアルなのだ。そういうわけで、おれは火曜日以外はただのチンピラとしてひっそりと生きている。舎弟を一人残らず黒焦げにしてしまったのがバレて組は破門になったが、ケジメをつけさせられると思った矢先組長は「どうぞどうぞ」と不気味なほど丁寧な対応で選別として300万をおれにくれた。ヤクザも大したものではないと思った瞬間である。
そういうややこしい能力のせいでおれには腕時計がかかせないのだ。今回もたまたまデーモンが月曜の深夜に現れてくれて良かった。月曜の深夜ということもあって、できるだけ隠れて時間稼ぎをしたのが功を奏したのだ。まともに戦っていればおれは間違いなくデーモンに食い殺されてしまっていただろう。逃げながら必死でジャングルジムの周りをデーモンと二人でグルグルしたが、ともかくあの小学生戦法は実に有用だったのだ。
以前一度月曜の昼間にデーモンに襲われたことがある。月曜の真昼間、誰もいない工場に手紙で呼び出された。それはつまり罠だったのだ。女の子の可愛い丸文字で「工場でお話しがあります」と書かれた文章は、素人童貞のおれにはとてつもなく眩しく映り、まんまとデーモンの策にかかってしまったのである。案の定おれはデーモンにボコボコにされた。鋭い爪で体中を引っ掻き回され、恐ろしい牙で幾度も噛み付かれた。瀕死で戦術的逃走を図っていたが、それは既に敗走の何ものでもなかった。火曜日までまだまだ時間があった。嗚呼、最早万策は尽きた。おれの命運もここまでか、出来ればもう少し生きたかったと胸の前で十字架を切ったとき、空や辺りが突然暗くなったのである。その瞬間ピピピと腕時計のアラームがなった。零時、火曜日である。まさかと思い辺りを見渡してみると、遠くに見える工場の屋根の上に月谷が満月を背に立っていた。気まぐれ屋のマンディ・ムーンだ。奴の能力は月曜日に発揮される。一体どのような能力かというと、月曜の夜のあらゆる時間に時を操ることができる。奴はその能力を使って月曜の深夜11時59分に時を早めてくれたのだ。
それからのおれはまさに鬼そのものだった。いや魔神と言っても過言ではないかもしれなかった。しかしその後、何がどうなったのか、実際はおれはその間の記憶がスッポリと抜けていた。月谷の証言によると、奴は体をブルブル震わせながら「あの夜のことは思い出したくない」といって逃げるように世界放浪の旅に出ていった。後日新聞を見てみるとその工場半径500メートルが跡形もなく消えていたらしい。おれはこのとき自分の才能を酷く恐れた。




2010年7月10日土曜日

熱帯

真夏、うだるような暑さ。
ひしめくように並ぶ文化住宅。
その中の一つの棟に用件があると思しき一人の男。
年は四十をちょっと過ぎたくらい





「ごめんよォ」
「………。 ………」
「オーイ。誰も居てへんのかー」
「……………………………」
「……………。よっと(敷居を跨ぐ)ほなちょッと、勝手に入らしてもらうでー。……おーい、キミ子ォー」





奥から出て来た少年。
年は十四五。





「…………………。………………………」
「……お、ケンジ、お前おったんか」
「…………………。…………………」
「………。……なーにを、そないに怖い顔しとんねん」
「………………。…………………何しにきてん」
「おい、キミ子はどこおんねん」
「…………。…………………」
「……仕事か?」
「…………………。……………………出ていけや。」
「……ちぇっ。冷たいのー。そんな言い方せんでもええやろがい。久しぶりにお父ちゃんが会いに来たゆうのに」
「…………誰が父親じゃ…」
「お前まだ新聞配達のバイトやッてんの?」
「……はよ出ていけやッ、ちゅうてんねんッ!」





その問いには答えず、男は部屋に上がる。
きょろきょろと何かを探す。
少年はその場から動かず、男を目で追う。





「あーあ、暑いのォ。冷蔵庫はァッと。……おお、あッたあッた。へへ。………ちゃんと麦茶作ッたァるやないかい。エライエライ。コレお前が作ッたんか?」
「……………………………」
「……………………。プハァ。……ハァ。アー、うまいのゥ、やっぱり夏は麦茶やなァ」
「………………………」
「それにしても、えらい疲れたわ。今日ホンマ暑いしなァ。ほやからちょいと、スマンけど、アグラかかしてや。休憩じゃ……………よッこらしょッと………」
「……………………。………」
「………いやな、ココ来るまで、ちょッと迷うたんじゃ。……ヤッパリ初めて来る土地ゆうんは、分からんモンやのォ。おんなじ大阪ン中やのに、この辺来た事もなかッたさかいな。おかげでアッチ行ったりコッチ行ッたり、ココの家も、一回通り過ぎてたんちゃうか(笑)………あ、……灰皿ァ、あるか?」
「…………………………………」
「灰皿。ちょッと一服さしてくれや。…………お父ちゃん歩き疲れてんねやわ。」
「……………………………………」
「オイ。灰皿て」
「………………………………………」





男は既に取り出していた一本のタバコを少年めがけて投げつける。
タバコは少年の胸下に当たッて床へ落ちる。
その間も、少年は男を静かに睨み付けたまま動かない。





「ええからはよ灰皿出せや」
「……………………。……………………」





少年はようやく重い足を動かし始め、男の座っている目の前の床に、灰皿を置く。





「おおけおおけ、ありがとさん。……………………。…………………フウー。………………。アー疲れた。…………しかしマァ、割りとええとこやないか、ココ。ちょっとマァ狭ッ苦しいけどな。風は結構ぬけるやないか。エェ。ええ風が通ッてきよるがな」
「………………………。……………誰のせいで、こんなとこに引ッ越すハメになった思てんのやッ」
「あ、そやそや!ユキちゃんどないしてんねん今」





その言葉を聞いた途端、少年はいッさんに男に掴みかかる。
しかしすぐに振りほどかれてしまい、男の蹴りで少年は部屋の端に飛ばされて、壁に身体をぶつける。





「……なんやねんお前は。相変わらず、うッとォしいやッちゃのー」
「……お前のせいでなッ!!…………………お前のせいで、ユキちゃんの結婚も、なんもかんも、アカンようになッてんぞッ!!」
「…………………。……………(他所を見ながら、ゆッくりとタバコを吹かしている)」
「頼むから、帰ッてくれやッ!!………………おれらはお前の顔なんか、見たくもないんじゃッ!」
「……………………ウルサイなぁこのガキは。もうちょい黙ッとれんのかいな…。ヤカマシイ」
「………帰れや」
「お前は帰ッてほしいんか知らんけどなァ。キミ子はそう思ッてへんのとちゃうか?」
「…………………」
「………おれも久しぶりにキミ子と会いたい思うてなァ。ほんでマァ、思いつきで今日来たんやわ。えらい突然で、悪い思たけどな。堪忍してや」
「………嘘つけ…。またお母ちゃんに金セビりに来ただけやろが……………」
「まぁ、それもあるけどな」
「……………………おれらがお前の借金、今でもどんだけ肩代わりしてる思てんねん」
「…ほやから、金出来たらちゃんと返すゆうてるがな」
「……………………お母ちゃんに金使わすだけ使わして、後は知らん。ほんで六に家も帰ッてこんと、どッか知らん女のとこばッかり行ッて。……お前一体何なんッ!マジで、おれとお母ちゃんの前から消えてくれやッ」
「………………フゥー。ホンマ、クチだけは達者になったのー。…………。……あのな、キミ子はおれの事まだ好きなの。ほんでおれもキミ子の事好きなの。つまり相思相愛ッちゅうやッちゃな。それで何の問題があるッちゅうのんじゃ?のう。なんか問題あるか?そりゃ、おれがアイツの事ムリヤリ引ッ張りあげて、アイツの財布から金巻き上げたんやッたら、罪にもなるやろ。ほやけど、おれが今までそんなんした事あるか?お?………のう。ケンジ。おれ今までなんやキミ子を脅したりしたかいな?」
「………………………。お母ちゃんの事いッつも殴ッとッたやろがッ」
「アハハ。そりゃァ、アイツが分けの分からん理屈垂れよるからじゃ。」
「…………………………………」
「ユキちゃんもユキちゃんじゃ。お前は詳しい話知らんからな、向こうの話だけ聞いて、おれが全部悪いみたいに思てるみたいやけどな。そりゃァ、アッチの言う事ばッかり聞いてたら、おれに不利な事だけゆうに決まッとるやろが。……物事にはな。どッちの立場に立ッても、そッちの奴が持ッとる大義ちゅうのがあんのじゃ。それぐらいの事も分からんのかお前?中学生にもなッて。バスとか電車、大人料金払ッとうだけで、脳みそはまだ子供のまんまか?」
「…………………ユキちゃんはなぁ………。もう今でこそ何もゆわへん。………ちゅうか、おれら皆、今ではその話には、触れたらアカンみたいになッてる。ほやからおれらもあえてその話は、せぇへん。…………そやけどなァ、ユキちゃんなァ、…………あの日ィ、おれの横で、ずッと泣いとッてんぞ。家の人に見られるのイヤやから、ゆうて、夜ずッと、コンビニの前で。………………お前、ユキちゃんに悪い事した、思わへんのかッ」
「………………だから、おれの話聞いとッたか、お前?」
「……………………。………おれは生まれてこの方、お前の事、父親なんて思ッた事、一回も無いからなァ…………………まして、身内でもない」
「カッカッカ。何と言おうが、お前はおれの子供やで。チャーント、おれの血ィも通ッとるわ。マァ、認知せなアカンけどな。したろか?……キミ子は喜ぶやろなァ」
「…………………………………………………」
「………………ちゅうか、キミ子はまだ帰ッてこぅへんのかいな。………アーァ。……ここでずッと待ッてても退屈やしのう。……お前もギャーギャーウルサイし。…………マァ、また改めて来るかなァ。………よッしゃ。ほな、今日は帰るわァ」





男は灰皿にタバコを押し付けて立ち上がり、ノロノロと玄関から出て行く。
少年は壁にもたれたまま、しばらく呆然としている。





それから十分程して、入れ違いに母親が帰ッてくる。





「……ただいまァ」
「……………………………………………」
「ハーァ。疲れた疲れた。………………。……ケンちゃん只今ァ。……………ケンちゃん?……………」
「…………………あ、おかえり」
「………どないしたん?」
「………………………。………い、いや、………。………別に何も、あらへん」
「……………?………………。……そう?」
「………う、うん」





母親は荷物を台所のテーブルに置いた後、もう一度いぶかしげに少年の方を見る。
その時ふと、床の上に置いてある灰皿に気がつく。





「……ケンちゃん」
「…………………ん?」
「今日、誰か来はッたん?」
「…………え、…………な、なんで?」
「…………いや、だッて、それ(灰皿を見ながら)」
「…………あ、……………」
「あんたタバコ吸わへんでしょ」
「………あ、いや……」
「あーッ。アンタ、ホンマは私に隠れて吸ッてたんやなァ。…………悪いやッちゃ!」
「…………あ、そのー、マァ……。」
「フフフ。………。……病気にならん程度にしときや。」
「…………………………………」
「……………ほな、ちょッと御飯の用意するわね」
「……………………うん…………」
「……あれ?」
「……………。…………?」
「…………………ここに、タバコ一本落ちてる」
「………………あッ!」
「……………。……………………!…………………………」
「…………いや、それわ……………」
「………………ケンちゃん?…………………」
「……………………………………」
「……………ねぇ。………もしかして、ノブちゃん来てたの?」
「…………………………いや、………」
「……ねぇッ?……ノブちゃん来てたん?………………ほんまに?」
「………………。………………い、いや、ちゃうねんッ!…………ちゃうねん!!………………お母ちゃんッ!!…………それちゃうねんッ!!……………それ、おれが吸おうとしてたやつやねんッ!…………………お母ちゃん!…………お母ちゃんッてば!!」





少年の言葉を全て聞かない内に、母親は家を飛び出して駅の方に走りだした。
少年は一人家の中にとり残される。





「………………………………………。……………………………ウゥ………。…………お母ちゃん………………。……………お母ちゃん……………。…………。ウゥ………。………お母ちゃん…………。………………………ウゥ………………………………」









 

2010年6月27日日曜日

**2

……ほぉ。…ほぉほぉ。…………なるほどなるほど。…ほな、いっつもサワダリカは鍵のことを気にしてましたんやな。…………はぁ。…ふんふん。………………。はいはい、おおけ。ありがとう。…はい。分かりました。ハイ。……いえ、大変参考になりました。……へぇ。はいはい。はい。…はいはい。…………はーい。ほな、失礼します。ハイ………。…………………………………。………やっぱりそうやったみたいでっせ。………ハイ。サワダリカはやっぱり、鍵についてなんらかの執着みたいなモンがあるみたいですわ。はい。今の電話の、スナックの元同僚のハナシによると、よう周りの人間にも、普段からゆうてたらしいですわ。………ハイ。……あの、やっぱりオトコの価値決めるんは、鍵見せてもらうんや、ゆうて。………ハァ。…いやね、なんか、自分の気になったオトコとか、これ自分の客に対してもそうやったみたいですねんけど、会話してる最中に相手のオトコに、鍵見せてくれ、てゆうんですて。ほんで、まぁそんときは相手に対しては適当な言い訳で取り繕うらしいねんけど、それでそのオトコを見極めるんですて。…………なんでそれでオトコの価値がどやこやゆうハナシになるんや言うと、ここからはその同僚から聞いたハナシなんですけど、サワダリカがその子にゆうたんですって。オトコゆうのは、鍵をイッパイもってればもってるほど、エエオトコなんや、ゆうて。…鍵ゆうのんは、その持ち主が、その物を管理してるゆうのを表してる。そやから、例えば、一つ鍵を持ってたら、そいつは何か一つ、世間の中の何かを一つ、管理してるゆうことや。そして、それはそのオトコが、その鍵に連なる世間の繋がりをも持ってるといえる。そやからつまり、鍵を沢山持ってるオトコゆうのんは、例えば、自分の経営する店やったり、事務所やったり、沢山の車や自宅やったりゆう、とにかく、世間に対してその鍵の分だけ、世間に対して繋がりもがあってかつ影響力がある人間ゆうことなんや。…そないゆうてましたんやて。……確かになるほどなぁて、ワシちょっと感心してもうたんですけど。……いや、マァ、そうゆうわけで、いずれにしても、やっぱりあのオンナ鍵に対しては何らかの思惑があるみたいですわ。……コレ割りとええ情報手に入れましたな。…………よっしゃ。ほな、ちょっとワテら、もっかい外で聞き込みしてきますわ。……………。

**1







「んでね、終電で帰って階段降りるとき、途中、酔ッぱらいを見たんスよ」
「へぇ…。…そういや、お前って住んでるとこって、あの辺りオフィス街だよな」
「あー、まぁ、そうスけど。でも、割りとあの辺住んでる人間も多いんスよ。ちょうどあの裏手に、結構手頃な賃貸があるんです。だからそこから乗車する人間とおんなじくらい、降りる人間もいるんですよね」
「それ知らなかったな」
「ハイ。実は結構穴場なんスあそこ。………でね、その酔ッぱらいね。ちょうど階段の踊り場ンとこで倒れてたんですよ。だからおれら電車から降りる連中からしたら、邪魔なのなんのって。みんなその酔ッぱらいの事、かなりウザがってましたね。そんで、おれもコンパの帰りで酒も入ッてたから、酔い目になんとなくソイツを見ながら階段降りてッたんですよ。」
「ほお」
「そしたらね、ソイツのほんとすぐ近く辺りで気づいたんですけど、その酔ッぱらいね。なんか一人でブツブツ言ッてたんスよ。独り言」
「…………そのオッサン幾つくらい?」
「あぁ、えー。どんくらいだろう…。まぁ、だいたい四十過ぎくらいなんじゃないッスかね。うん。そんで、まぁおれもいつもならそんなのムシしてトットと帰るんですけど、酔ッてたのもあったし、なんとなく興味本位で、そのオッサンの隣をゆっくり何言ってるか聞きながら降りてったんですよ。そしたらね、そのオッサン!泣いてるんスよ!地面を拳でガンガン殴りながら。頭おかしいんじゃねーかって思いました」
「…………………」
「んで、なんか一生懸命言ってるんです。畜生、畜生、って。こっちもスゲー気になるじゃないッスか。一体どうしたんだろう、って」
「……………ほお」
「そしたらね。ふふ…。よく見たら、分かったんスよ、おれ。」
「なんで泣いてるか?」
「ハイ。あのね、そのオッサンのすぐ近くにね。腕時計がね、落ちてたんですよ。」
「腕時計?」
「ハイ。おそらく、そのオッサンの腕時計だと思います。その時計ね。多分、酔ってたから、コケたんだと思うんスけど、表面の部分が、かなり欠けてたんですね。酔って、コケちゃって、壊したみたい。……んで、その時計を握りしめながら、畜生、畜生、って、ずっと言い続けてルンですよ。お前、一体どんだけ時計壊れたのが悔しいんだと(笑)」
「…すごく高価なモンだったんじゃねーの?」
「いえ、全然そんな風には見えなかったですね。なぜかっていうと、オッサンの身なりからしても、良い物一つも着てなかったんですから」
「…………」
「酔ってるから、感情が昂ってたンすかねぇ。とにかく、尋常じゃない悔しがり方でしたよ。役者でもあそこまでの演技は出来ないですよ(笑)」
「………………………」
「………………いやー。ホント。世の中には変なヤツいっぱいいますねぇ……」
「………………………………」
「………………先輩?………………………どうしたんスか?」
「………………いや、……」
「………………?………………」
「……………………」
「…………………。……………どうしたんスか。突然…」
「………………。いや。……なんつーか、オッサンの気持ち、なんとなくおれも分かるなぁ、って思って」
「オッサンの気持ち?……なんスかそれ(笑)」
「いや、……なんとなく昔の自分と被ってさ。」
「へ?先輩と??……………なんで突然」
「これはおれの推測だけどさ。…………多分、そのオッサンは、腕時計が壊れたことでそんなに悔しがって泣いたんじゃないんだよ」
「…………はぁ。………なんで?」
「多分な。オッサンは、それまでにいろんな自身の事情があったんだよ。………………それが一体なんなのかは、おれは知らん。だけど、人間、年食えば食うだけ、色んなこと抱え込んで生きてるじゃん。しがらみっての。……………仕事とか恋人とか、家庭とか、夢とか色々。その中でさ。ほんっとうに、どうしようもない時がある人間ってのも、イッパイいるんだよね。…………なんでそんなに不幸が積み重なるのって思うほど。」
「…………はぁ。………そんなモンなんスかねぇ…」
「…………………そのオッサンも多分、そういう、いろんなことが、溜まりに溜まってたんじゃねーのかな、って。………なんかそういう風に思ってしまう。……………………てのはさ。実は、おれもついこの間、それに近いことがあってさ」
「えー?先輩が(笑)………ジョーダン」
「ジョーダンなんか言うかよ。………………そんなつまんねー事、他人にベラベラ喋れるかよ。恥ずかしい」
「恥ずかしいって、おれには話してくれるンですか?」
「つまらん揚げ足とんなよ」
「ハーイ。………てか、あーざす」
「ハハ。…………………………おれもさ、ついこの間まで、結構色々重なったことがあってさ。」
「例えば?」
「……そこまではさすがに格好わりぃから言わないけどサ。まぁ、ありきたりに言えば、仕事とか女とか、まぁ夢とか理想とかね」
「へぇー」
「…………まぁ。やっと。やっとかな。やっと、この間、現実に打ちのめされちゃってさ。全部がもう、どうしようもなく、見込みがなくなってさ。」
「…………………」
「そんなあるときにさ、休みの日に、家で過ごしてた事があったのよ。まぁ、過ごしてるって言うか、実際は誰とも会いたくなかったってのが本音なんだけどな」
「……………あ、…………もしかして、それって、こないだ、おれが先輩にコンパ誘ったときですか?」
「あぁ、そうだそうだ。そうそう」
「…………マジですか」
「あぁ(笑)」
「……………わかんねーもンスね」
「…………………んでさ、一人で家にいたのよ。んで、横になりながらテレビ見てたの。」
「ハイ」
「…………そしたらね、掛けてたメガネの、片方のレンズが突然転がり落ちたのよ。…どうやらネジが緩んで、そのネジも落ちたみたい」
「へぇー」
「……んでね、おれ、なんかもう、ネジを必死で探してさ。………でも、メガネのネジって小さいじゃん。結局見つからなかったんだよね。」
「…メガネのネジってかなり小さいッスよね」
「おう。…だから、替えなんてなかったよ。……おれどうしようと思ってさ。だって、メガネないと仕事出来ねーし。んで考えたの。………そしたらさ、そういや、大昔に買って、デザインが気にいらなくて、そのまましまったままになってるメガネがあったの、思い出したのよ。」
「ハイ」
「ああ、あれのネジをとって、今使ってるメガネにはめたら使えるかなって閃いたの。」
「なるほどね」
「んで、案の定、ネジ穴のサイズもピッタリだったわ。………で、いざそのネジをはめようとしたら」
「……………そのネジも無くしたとか」
「言うなよ」
「(笑)」
「………モウ。……………なんつーかね。貧すりゃ貪すとか、藁打ちゃ手打つとか。色々言い方あるじゃん。………アレマジだね。…………おれね、なんか。そんとき無性に、なんつーか、こう。怒りっつーか、情けないっつーかね。その、他の誰かに対しての感情じゃあないんだ。なんかホント、自分って生き物がどうしようもなく、馬鹿でマヌケで、無能な存在ってのを痛感した気がしてね。……………いや、普段ならそこまでネガティブなこと考えないんだけどさ。だけど、あの重なった時期ってのが、やっぱりどうしようもなかったんだな。おれの行動や周りにあるもの全てが、暗い方向に向いてた。……………………今でも覚えてるよその時の気持ち。…………おれそんとき、頭と体に力イッパイ込めて、もう。めちゃくちゃ力込めて、声殺して、ベッドを拳で叩きまくってた。………ただ、なんつーか、空しくて悔しかったよ。」
「………………………」
「………………多分そのオッサンもそんな気持ちなんじゃねーかな。とか。」
「……………」
「まぁ、まるっきりおれの想像なんだけど」
「………ウーン。……………。おれには分からないッスねぇ」
「ハハ。まぁお前はおれと違って明るいからそんな事にはならないような気はする」
「……………あんま物考えないスからね。おれ」



 




2010年6月10日木曜日

前座








…………………。…… ……エェー。どうも。… …皆様わざわざ遠いとこから足をお運びで。今日はドーラク亭寄席大入り満員でェ、どうも有難うございます。…… ………と、ゆうても、皆さんなんやハトが豆鉄砲でも食ろたような顔しておりまして………。………えへ。どうもすんません、突然こんな知らんおっさんが出てまいりましてェ。…まだ皆さんにも六にお目通りもしてませんで、ほんに申し訳ありません。ほなちょっと、まず自己紹介からさせてもらいます………、……… ………って、アラ。…… ……あらあら(笑)わたいの名前知ってまんのんかいな。……え、………な、……なんで皆さんそんな知ってまんねん(笑)わたいまだ落語家なってちょっとも経ってへんし、六に高座にも上がってェしまへんのやで。まだ持ちネタもないし、ここの寄席上げてもらうのも今日が初めてですがな。エェ。…そやのに何でわたしの名前知ってる人、そないに居てんのん(笑)かなんなぁ古参のお客さまは……。……チョット、お父さん、どこでわたしのことお知りになったんです?…… ………一心寺、はぁはぁ。… …それわたし弟子入りして初めて高座上がらしてもろた時ですがな……ついこの前のことですやん。…カー。ほんまに恐れ入ります。覚えて頂いてて有難うございます……。エェ。こんな末端のモンまで覚えて頂いてるやなんて、大した常連さまですわホンマ。エェ。…… …マァー、そうゆう奇特なフアンの方以外はー、わたしを初めて見る方も多いと思いますのんでー(笑)、…ここで改めて自己紹介の方をさせて頂きます。……エェー、わたくし、この度、桂ざこばの直弟子にさせて頂きましたァ、桂こわっぱと申します。どうぞ皆様、よろしくお願いいたします。…… ……オォ、どうも、沢山の拍手、有難うございます。……エェー、まぁ、わたくしの名前ェ、こわっぱ、ゆうのんはー、小さい子供や若いのをこう、ののしってェ、ゆうときのコトバなんですな。せやけど、わたくし、今年三十九のおっさんなんでございます。…エー、へへ…。… …あぁ、そうそう、こないだのね、さっきそちらのお父さんが行かはった、一心寺のね、あのー、一心寺シアターゆうんがあるんですわ。一心寺のすぐ隣に。キレイな建物ンなんですけどね、でももう建ってから割りと経つんですけれどもォ、ウチもあすこでね、年に何回か落語会やるんですわ。うん。ほんでその、この前の、、そちらのお父さんが行きはった落語会がね、アレ。あれがわたしの初高座やったんですわ。ハイ。ほんでね、そン時ももう、あの、その、まぁゆうたらライブハウスみたいなモンでんなぁ、そないにメチャクチャ広い所やないんですけど、なんやもぅその日ィはお客様がイッッーパイ。…マァ、それは吉弥兄さんが出てたからなんですけどね(笑)ほいでモゥ、そこが、ほんまにえらい人でね。マァ、なんでわたしみたいな新米がそんなとこに出てたのんかァ言いますとー、これが師匠に言われたからですねん。エェ。そりゃァ、ビックリしましたがな。… ……ウー、おいッ、……ウー、こわっぱッ!…ウー、……これ師匠のどもりの真似なんでございます。エー(笑)、……ウー、お、お前、ちょ、ちょっとッ、あの寄席、お前も出てこいッ。ちゅうて言われまして。わたし、エェー!ってなりましたわ、ほんま。なんでて、わたしまだ弟子なりたてでっせ?つい一ヶ月前に弟子なったばっかりですがな。六にネタもないのに、出ろて、そんなムチャな話ありますか?せやけど、師匠が出ろ、ゆうんやから出なしゃあないですがな。わたし今まで、そんな大勢の人の前で一人で喋ったことなんか、なかったんですけどな。せやけどそんなんゆうててもしゃーない。モゥ、腹くくってガーッっと出ましたんや。ほんでもう、前座ですがな、とにかくなんか喋ろう思て、マァ今日みたいに、まず自己紹介から入ったんです。ほんッだらもう、その日ィのお客さんがー、これまた活きがええちゅうかなんちゅうか、えぇ。後から兄さんたちから聞きましたけど、そりゃもう、あの日ィのお客さんはやっぱり大変やったそうですわ。…まずわたしがね、桂こわっぱでございます、桂ざこばの八番目の直弟子ですーちゅうたら、もう、エェ、びっくりしましたがな。そこら中から、コワッパ、コワッパ、ざこばのコワッパかいッ!ざこばのコワッパなんかい!もうそっちからこっちから、あっちから後ろから天井から、大声で呼びかけてくるわくるわ(笑)。エェ。わたし、そうですねん、そうですねん、ゆうて。後から兄さんらに、お前、一人ずつに返事返してたら、そのうち日が暮れてまうがな、ゆうて怒られましたけどな。エェ。てゆうか、ざこばのコワッパ、て…。…あぁそうや、皆さん、ざこば師匠の、ざこば、て名前の意味、知ってはります?マァ年配の方は知ってなはると思いますけど、今日は若い方もチラホラ居てますんで、ちょっと解説しときましょうかね。…… …むかーしに、昭和の初めころですかなぁ。あの、今の大阪市西区のウツボ公園、ありまっしゃろ。あの、大きーいひろーい公園。ちょうどあの辺ね、昔は大衆魚市場でしてん。ウン。今はもうのぅなってしもて、場所も変わって、大阪市中央卸売市場になってますけどな。ハイ。ほんでマァ、そうゆう、大衆魚市場を、昔はざこば、ゆうてましたんや。ざこ、は、雑魚の雑魚、ほんで場ね。マァ、今はもう、そないな言い方せんようになりましたけどな。ちゅうわけで、マァほやから、ゆうたらわたし、雑魚場を走り回るコワッパゆうわけですわ。……三十九のええおっさんですねんけど……。まぁそうゆうわけで、わたしの初舞台はえらい野次、ゆうたら失礼ですな(笑)、壮大なァ、歓声のもとー、行われたわけです。…イヤー、マァ、ええ経験が出来ましたわ。…なんとゆうか、目の前にお客さんをジーッと見据えて、スパーッと喋るゆうのんは、生、言いますかな。こう、お客さんとの空気をじかに感じながらやるゆうのが、こう、なんとも堪りませんなぁ。ほんに気持ちがエエもんです。……エェ、ほんで、マァ今言いました通り、わたしね、まだネタも六にあらへんのです。ほやからゆうたら、皆さんの前でお見せするモンが、まだないんでございます。せやのに今日も高座に上がってて。……皆さんもビックリしましたやろ?だってメクリには、前座の桂とま都と書かかれてんのに、楽しみに待ってたら、こんなゴリラみたいなんが出てきて。えぇ。きゅうり待ってたら、ゴリラが出てきた、ちゅうて。えぇ。ネェ。ホンマやったらきゅうりみたいな細長い顔した、とま都兄さんが出てくるハズやったのにねェ。エー、へへ……。………… ………へ?…… …いやいや、ソリャア、いくらとま都兄さんが若ぉて、わたしがおっさんやかて、芸暦は向こうの方が遥かに長いんでっさかい、兄さんは兄さんですがな。……… …………いやいや、……なんもおかしいことおまへんがな(笑)。せやけど、ゆうてもわたし若手やァゆうことでね、とま都兄さんにはえらいようしてもろうてます。もうすぐ、とま都兄さんも名前が変わりますのんでね、今丁度一緒に、自分らの名前のくすぐり色々考えてますねん(笑)まぁ、今はまだ内緒やから、ゆわれへんのですけどね。…とま都兄さんも、これからトマトネタ使われへんゆうて、えらい嘆いてましたわ(笑)えぇ。そやからマァ、出来上がるまで楽しみに待っとってください。……いやいや、マァ、そんな話しよりも、あのね、今日、なんでわたしがこうやって出てきてるんやと思います?、皆さん。ねぇ。前座が、とま都兄さんやのぅて、わたしが出てくるやなんて。おかしいでっしゃろ。えぇ。…………あのね、これ、ウソみたいな話なんですけどね。ぜーいん、…… …えぇでっか、皆さん、全員でっせ。ぜーいん今日、皆遅刻でんねん。…… …(笑)イヤイヤイヤイヤ、これホンマですねんて(笑)ほんま。今日出る落語家、皆遅刻しましたんや。前座からトリまで。… ……いやいや、これほんまですねんて。せやから、わたしみたいな前座でもない下っ端が高座に上がらせてもうてますのやがな。えぇ。いやいや、もうすぐ皆着くと思いますねんけどな。そやから、ほかに誰も居てェしまへねん。ねぇ。ほんま、ビックリしますがな。えぇ。今日ざこば師匠がね、今朝からテレビの仕事してましてね、ほんでわたしがついていってたんですけど、ほしたら、こっちに寄席から電話がありましてね、今日皆遅れてるんですぅー、ゆうて、泣きの電話がかかってきましたんですがな。えぇ。わたしもえらい焦りましてね、ほんで、師匠どないしましょう!ちうたら、師匠がね、……ウー、ウー、ウー、………… ……もう真似に入ってるンでございます……。…ウー、ウー、ウー、オイこわっぱ、ワレさっさと行かんかイッ!!……… ……もう鶴の一声ですわ。ほんッでわたし、師匠置いといて、一人で関西テレビから先にビューンッ!……… …………、………そういうわけでェ、わたしが今日高座上がってるーゆうんは、……ドーラク亭のォ、総意なんでございます。…とゆうか、苦肉の策なんでございます。エー、へへ。ホンマに。そやからね、わたしこれでも初高座の時より、よっぽど緊張してまんねんで。…… …してますがなー(笑)いやいや、ほれ、こう、汗粒がキラーっとしてまっしゃろ。… …いや、ホラ、ここここ。ここの、でぼちんのハゲ上がってる辺り…… ……どうです?見えまっしゃろ?…見えまへんの?…… ……… ……どうやら心の醜い人には見えへんみたいです…。…エー、へへ(笑)、そうゆうわけでね、あれですわ。つまりわたし、ネタもないのに高座に上がるという、ゆうたら噺家にとっては自殺行為みたいなことをやってるんでしてェ…。ねぇ。ほんま、新人にムチャさしよんで………。まぁそうゆうわけでェ、とりあえずは、今日やる噺家の皆が到着するまで、なんとかわたしが繋いどこうと思てる分けで御座います。……オー、拍手のほう、どうも有り難うございます…。……ほんに、今日のお客さんは暖かくて有り難いですなァ。一心寺のときなんかもう、なんちゅうか、喧嘩っちゅうか、ものすごい熱気でしたからなァ。マァそれもそれでやりがいちゅうんがあるんですけれども。えー、寄席をやるにしても、落語するところによって、その場の雰囲気、ゆうんが違うんでございますな。…このドーラク亭はエェとこですがな。えぇ。何がええちゅうて。ねぇ。当日でも楽に入れるッ!あの超有名落語家の桂ざこばが出てるゆうのにィ、満杯ならんと実に快適にゆっくり楽しめるッ!………とか、ゆうて(笑)エェ。…まぁそればっかりやのぅてー。ねぇ。雰囲気がええですがな。えぇ。皆さんちょっと、耳すましてみなはれ。… …窓の外から楽しそうな喧噪が聞こえますがな。エェ。地下鉄がすぐそこにあるさかい、今時分はそこから、動物園行く人やら、通天閣見物しに来る人やら。ワイワイワイワイゆうてるのんが、よぅ聞こえてきます。… …昔はねぇ、ちょっと道歩いてたら、すぐ近所で寄席がやってた。近所のお店の部屋借りたりしてね。ほんで、町の雑踏をこぅ、ゆうたらビージーエムにしましてね。ほんで、落語しよったんです。道の外からも、こう、ムリヤリ背伸びしたりして、タダで見る人もギョーサンおったりね。それもまた愛嬌ですがな。せやけどもう、時代が変わってきて、法律がどやこや、道路整備がどやこやゆうようになってきて、今はもうそんなとこ、ないですがな。落語見に行くゆうても、チャーントした、かしこまった劇場で見るぅゆうね。…いやいや、別に繁盛亭の悪口ゆうてる分けやおまへんで(笑)。…マァ、これも時代の流れ言いまんのかいなァ、昔の人と今の人とでは、落語の見方がちゃうんですな。… …せやけど、このドーラク亭はちゃいますがな。昔ながらの、ほんまに気楽に見られる寄席、ゆうね。町の喧噪の中にごちゃごちゃに紛れて、マァゆうたら、お祭りの屋台の、…お化け屋敷とか、輪投げとか、そうゆうのの一つみたいな感じがするんですわ。うん。……ほやから、その陽気な感じ、ゆうんかな。昔ながらの見世物小屋みたいな、そうゆう雰囲気が、ここにおる皆さんにも乗り移ってルンやと思います。…ホラ、ちょっとお互いの顔見てみたら分かりまっせ。…皆さん幸せそうな、お多福さんみたいなヤサシイ顔してますがな。ねぇ。…………(笑)マァー、そっちのお母さんは、ほんまにお多福さんみたいな顔してなはるけど(笑)ふふふ…。… …………、え?… …………あ、ハイハイ。…………………、分かりました。…… …エー、今もう、とま都兄さんが到着したみたいで。ほな、そろそろ、新人のおっさんは裏に引っ込もうと思います(笑)…エー、…どうも皆様、わたくしのつたない喋りにお付き合い下さいまして、どうも有難う御座います。 これからは、ワタシみたいなニセモンやのぅてー(笑)、ちゃんッとした落語家が出てきますんで、ご安心下さいませ。… …エー、それでは、お待たせ致しまして。…只今から、ドーラク亭寄席、開演で御座います…

 




2010年6月9日水曜日

コンビニ







「えーっと、どれどれ……。……お、あったあった。………これやがなこれやがな。えぇ。今週号が出るんを一体どれほど待ったか。えぇ。ウン、…マァ、どれほど待ったて、二週間待っただけなんやけどな。お、ちゃーんと週刊ウワサと書いたあるな。合ってる合ってる。……おぉ、ホレ。これ見てみい、ここの見出し。えぇ。ウーン。かなんなぁ……、へへへ…。…ちょっとワクワクが止まらへんやないか。うふ。この記事どれほど心待ちにしてたか分からへんで。えぇ。今週の一面スクープ!と書いたある。……ちょっと声出して読んでみたろ。……オッホン…….。………スクープ!誰もが知ってる超有名人K.K極上生絞り盗撮!隅々まで撫で回した60分!超激写!……カーッ、我慢できへんなぁホンマ。えぇ。…なんか、声出して読んでみたらよけいイヤラシイ気がするな。えぇ。字ぃで読むよりも、えらいコーフンするがな。かなんなぁ。…… …ちょっともっかい声出して読んだろ…。エー、……誰もが知ってる超有名人K.K極上生絞り盗撮!隅々まで撫で回した60分!超激写!……おふぅ… ……タマランなホンマ。えぇ。……はよ家帰って袋とじのDVD見たいナー。ウフフ…。おっと、まぁまぁ、そないに慌てんかてええがな。今日はちょうど、漫画週刊誌が沢山出てる日や。まずここでゆっくりと立ち読みでもさしてもうてやで、ほいで、酒でも買うて、えぇ。それからユックリ余裕カマして家帰ったらええがな。なんかて今日は花金じゃ。夜更かしもイッパイできるしなァ。うふふ。… ……せやけど、今回もDVDの中、偽物やったらイヤやなぁ。。前回のやってえらいヒドかったがなあれ。えぇ。エーッと、あれ題名なんちゅうたかいな。…… …あぁ、そやそや。エー。……庶民派T.Hの危機!ねぶって震えるぷるんぷるん白魚玉子肌!残さず食べ尽くし60分!やったか。… ……正直、庶民派T.Hと書いたあるけど、誰の事か分からんかったわい。せやけどこんな煽り文句かかれてね、誰が無視できますか。えぇ。これに反応せぇへんで何が男やっちゅうね。わたし見つけた途端ソッコー買って、高鳴る胸押さえながら家帰ってね、ほいでDVD見ましたがな。ほたらそこに何が映ってた思う。えぇ。テレビの画面いっぱいに、美味しそうな豆腐さんがデカデカと映ってて、ほんでそれを誰か知らんオッサンが、ねぶったり齧ったりしながらウマそうに食べてたがな。ほんでオッサン、60分かけて美味しそうにちゃんと完食して、最後にごちそうさまでしたッ!!ゆうて、えぇ。大ォーきなエェ声やったであれ。こっちもおもわず、おそまつさまでしたッ!!ちゃんと返事してもたがな。えぇ。えらい美味しそうに食べるから、こっちもお腹すいてきたがな、ほんま。…マァたしかに名前T.Hやし、白肌ぷるんぷるんやったけどやで。広告に偽りないからこっちもよぅ言わんけどやな。………せやけど、せやけどね。いくら騙されてるゆうてもね。男はワナて分かってても、そういうところにあえて入っていかなアカン、なんちゅうか、物事の勝負時、ちゅうモンがあるんや。ウン。あれやがな、虎穴に入らずんば虎児を得ずちう、えらい人の言葉がありますがな。えぇ。今週号のこの記事はな、これ、ゼッタイ逃したらあきまへんのや。今回の記事のこのK.Kってね、これ、ゼッタイあの有名女優のキタノケイコのことやがな。今飛ぶ鳥落とす勢いのキタノケイコが、あんなことやこんなことなるて、そんなもん、えぇ。おれのね、この、おれの息子サンがそんなもん、黙ってゃァしまへんで。えぇ。男やったらそんなもん、キタノケイコの一部始終を、責任もって見届けてやるしかないがな」
「………いらっしゃいませー」
「…………………。…… ………うぉ。なんやなんや。なんかエラい漫画みたいなヤンキーが来たがな。…… ……なんやあれ。今時キンキンの金髪に真っ赤なトレーナーて。またえらい服のセンスやがな」
「…… ………… …オイコラ、ネーチャン」
「………は、はい?………」
「今日おれな、昼間ここで、ジャイアントフランク買ぅたんや」
「……あ、ありがとうございます……」
「挨拶なんかええわい。おれなジャイアントフランクな、大好きなんじゃ」
「…………は、はぁ。」
「いっつもな、仕事の三時休憩のときに、ここでジャイアントフランク買ぅてんのや。まぁ、ゆうたらワシのオヤツじゃ。ほんでな、今日もいつも通りここで買ぅて食べてみたらやで。なんかえらい変な匂いがしての、まともに食えたモンやなかったんじゃ。オイコラッ。ワレんとこは店で客に腐ったモン買わすんか。」
「も、申し訳ありませんッ!」
「バイトのネーチャンの詫びなんかいらんのじゃ。店長出さんかい」
「ハ、ハイッ。今ちょっと奥にいますんで、呼んでまいります…… ……、あ、店長ッ!」
「ど、どないしてんユミコちゃんッ」
「店長、こちらの方が……… ……」
「ど、どないしましたんで?ウチの者が何か不手際でもしたんでしょうか?」
「どないもこないもないんじゃ、おぉッ。ワレのとこは腐ったモンを客に売ってんのか、ちゅうてんねん」
「エェッ!腐ったモン?」
「このお客様がお昼に購入されたジャイアントフランクが、腐ってたんですって」
「えぇ?ジャイアントフランクが?」
「そうやがな」
「え、そんな阿呆な…。レジにある棚モンは、消費期間もかなり余裕持たして処分してるンで、まさか商品が腐るなんてことはないと思うんですけど……」
「そんなワレの都合なんか知らんのじゃボケッ!こっちは楽しみにしてたオヤツの時間台無しにされて腹立ッとんのじゃ」
「………オヤツの時間?」
「なんか三時休憩の時に、ウチのジャイアントフランクをオヤツで食べるんが楽しみなんですって」
「うちんとこの?ジャイアントフランクを?オヤツにしてんの?」
「そうらしいです」
「お前、こっちはこんなモン買わされてエライ迷惑してんのじゃ。エェ、コラ。」
「ふっ、それはどうも申し訳ございません」
「何笑てんのじゃコラ」
「店長ッ(笑)」
「いや………だって、………… ……ええ年してオヤツとか(笑)」
「お前らなめったらアカンぞラアッ!」
「ヒイッ!!(二人同時)」
「……… ………………ほやから、こっちとしては誠意を見せろちゅうてんのじゃ。おぉ?」
「……………誠意と言われましても………。だいたい、腐ってる、ゆうんが分かった時点で、なんでそれをすぐ持ってきてくれへんかったんです?」
「三時休憩は十五分しかないから時間がなかったんじゃ」
「せやけど、現物持ってきてもらわんことには、こっちとしては何とも………」
「…オイコラワレ。お前、もしかして、オレがウソついてるゆうてんのか?」
「いや、そうゆう分けやおまへん」
「腐ったモン買わされたんは、客のオレやねんぞッ!?こっちは夜にわざわざ、用事もないのにもっかい来てんのじゃ。それやのにお前のその態度はなんやねんッ」
「かなんなぁ。。……… ……ほんなら、新しい方の商品を渡しますんで、それで勘弁してください」
「アカン」
「……は?」
「そんなモンではアカンわ。お前らの態度も気に食わんしのう。そんなんではもう、ワシの気分は収まらんようになってきた。」
「……………」
「フリーパスじゃ」
「……………は??」
「ジャイアントフランクの1年間フリーパス発行せいや」
「……。……ジャイアントフランクのフリーパスて、一体何です?」
「いや、そやから、ジャイアントフランクを1年間、どんなに食べても無料、ゆう券や」
「それがジャイアントフランクの1年間フリーパス言いまんの?」
「そうじゃ」
「……………。……… ………………………………」
「店長ッ(笑)」
「お前何笑てんのじゃゥラアッ!」
「ピンポーン」
「………あ、いらっしゃいませー」
「こんばんわぁ、店長」
「あ、ミヤさんッ」
「………。… ………………。……………なんか、モメてまんの?」
「いやいや、気にせんといて。こっちのことやから」
「そう?……… …………? ……………って、お前ワレ、カキモトちゃうんかッ」
「………え、……あ、え……」
「ワレお前、今何してたんじゃ。この前ワシが補導したとこちゃうんか?オォ?」
「……… ………あ、…… …いや、」
「…あぁあぁ、ええよええよ。ミヤさん。これはウチとこの人の問題やねんから。わざわざ警察の人に割り込んでもらわへんでも。あれでっしゃろ、ミンジなんちゃらゆう……」
「……… …はぁ、まぁー、…… ……そうでっか?………いやいや、せやけどね、こいつら甘やかしたらあきまへんで、店長。こいつら暴走族でっさかいね。夜中にホンマ好き放題やっとるし、こいつらの上のモンじゃ暴力団と繋がってるみたいやからね。まぁしかし、仕事やけども、こんなしょうもないヤツに付き合わされてね、ワシらもホンマ迷惑しとるんですわ。ほやからね、ホンマ、こいつらにはワシ、並々ならぬ私怨があるんで。…… ……オイコラ。お前この店のシノギに手ェ出してみい、ワシが地獄の果てまでお前ら捕まえにいったるからなァ…」
「…… ……… ………」
「マァマァ、そないにゆわんでもエエですがな。ねぇ。お兄さんもえらい縮こまってしもて。…… ……マァ、ミヤさんは買い物楽しんでくださいな。わたしはもうちょっと、この人と話してますから」
「…… ……。…… ……ほなら、なんかあったら、ワシにゆうて下さいね。すぐコイツに縄かけたりますからッ。……… …… ……シッ!」
「………………」
「……… なぁキミ、ミヤさんに補導されたん?……あの人怖いやろ。…… …あの人、ホンマは警察官やる前はゴクドーやったんちゃうか、ゆわれてんねんで。せやないと、あの迫力は中々でぇへんがな。えぇ。…… …えーと、ほんで、…何話ししてたんやったかいな…… ……」
「せ、せやから…… …」
「あ、そうやそうや、ふっ、フリーパスがなんやら……」
「ジャ、ジャイアントフランクの代金返してくれたら、それでええわ」
「へ?」
「……… …いや、そやから、今日おれが買ぅた、ジャイアントフランクの代金返してくれ、ゆうてんねん」
「へ?……… …いやいや、あんた、ふっ、フリーパス欲しいやとかなんかゆうてましたのは…」
「それはもうええんじゃッ。さっさとおれが今日買ぅた、ジャイアントフランクの代金返せェ、ちゅうてんのじゃッ」
「……なんかありましたのんか店長?… ……カキモトお前ワレ、店長に向かってなんちゅうクチの聞き方してんのじゃッ。おおッ?」
「……あ、いや…… …」
「なんでもおまへん。ミヤさんはお買い物楽しんどってくださいな」
「……… ……さよか?………… ………」
「店長、あの人えらいションボリしてますね。」
「マァ、なんちゅうても、仕事にイノチかけてる人やからなァ…」
「…… ……あの……」
「あぁあぁ」
「ジャイアントフランクの代金……」
「あ、ハイハイ。………… …ほな、これ。…これで、許してもらえますのんかいな?」
「……… ああ、ええで」
「どうも有難うございますッ!ホラ、ユミコちゃんも、ちゃんとお礼ゆうて」
「どうも有難うございますゥ!」
「今後ともごひいきに頼みますッ」
「…… ………………… ………… ……なんやなんや、えらい大声出してェ、叫んで喚いて。あれが若さちうヤツかいな。えぇ。…なんかジャイアントフランク!ジャイアントフランク!て聞こえてきてたけど………。ジャイアントフランクのフリーパスて、何をゆうてんのや。そないにジャイアントフランクが好きなんかいな。エェ。見た目ゴリラみたいで、かつアホなヤンキーやがな。…… …そやけど、あの警察官もエラい恐ろしいやっちゃで、えぇ。えらい怖いがな。あれ絶対そっち系の人やろ。いやいや、そりゃァ、ああいう仕事は犯罪者相手にするモンやから、なめられたらアカンのは分かるけど、そやけどあのナリと怒鳴りはどう見てもほんまモンやがな……。えぇ。公務員ちゅうんは恐ろしいもんやで。………。……… ……アレ、あのヤンキー、用事済ましたみたいやのに、こっち来ようで。……なんやねん、…ここ来て立ち読みする気かいな。えぇ。……かなんなぁ。夜12時すぎたら割りと人も少ないから、ここはいっつもワシの天国やのに……。あんなイカツイのんが来たら、ゆっくり立ち読みできへんがな……………」
「…… ……………ちぇッ。クソッ。あのポリ公が…。もうちょいでフリーパス吹っかけれたのに。ボケがほんま…」
「………………」
「あんなモン、腐っとろうがなかろうが、インネン吹っかけたら一発やのに…。ホンマついてないで。よりによってあのポリ公がおるとか」
「……………………(やっぱり腐ってんのウソなんかいッ)」
「………。………あぁ?…ワレ今なんかゆうたか」
「……………………」
「コラ。何ワレシカトしとんじゃ」
「………へっ?…………。……… …へ?………ワタシですか?…え。な、なんかわたしに用でっか?…… ………いや、わたし、ちょっとこの雑誌に夢中やって……、周りの事全然聞いてなかったんですわ。え、エー。何があったんやろナー……全然分からんナー」
「………。…………ちぇッ。なんやワレ。……変なヤツ」
「…………(ムカッ。腹立つやっちゃナーッ。……なんじゃいなコイツ。……知らん知らん。ほっとこほっとこ。これ以上関わったら面倒やしな……)」
「………………………」
「………(なんか単車の雑誌読み始めたぞ。……やっぱりそうゆう雑誌が好きやねんなぁ、こうゆうレンチューわ。……いやいや、ムシやムシや、こんなアホ。……それよりも。えぇ。この週刊ウワサ。………………オー、DVD以外にも、ソソられる記事がいっぱいやんか。今回の記事も。えぇ。かなんなぁこの雑誌わ。。男のツボちゅうのをホンマに分かってるで。えぇ…)」
「………………。……………」
「………………(うわッ!こ、この体勢はアカンやろ………。この体勢で、エェッ!)」
「………………………」
「………(ひえぇッ!お、おなごにこんな格好させたらアカンがな、エェ……。やめてあげてぇな。。わたしそんなに挑発されたら、えらい事になってしまうで…。や、やめぇや……)」
「……………………。……………。……………」
「………(ちょ、ちょっと、今週号はちょっと、度が過ぎるんとちゃうか………。これはアカンやろ、これは。エェッ!こんなもん見せられて、ワシらどうしたらええねんッ!!)」
「…………………。………………………」
「………。………ぎゃーッ!!も、もう見てられへんがなッ!!…幾ら年頃のオトコにもシゲキが強すぎるがなッ!!」
「……………。………………」
「……………!!………………あッ………………」
「………………………」
「………………………い、いやぁ…………」
「………………。…………」
「………………。………(なんか、めっさ見られてるで……)」
「……………………………」
「…………い、いや、………アノー、別に何もおまへんねん………」
「………………………」
「………………、いや、あのー、…………き、気にせんといておくなはれや……。……てドウゾ、そちらの続きを読んだってください………」
「………………」
「………………、いや、そやから、…………あの…………」
「…………。……………おい」
「……………はいッ?」
「……………それ、何読んでんねん」
「…………はッ?…………いや、………………只の雑誌ですケド…」
「なんちゅう雑誌読んでんねん、ゆうてんねん」
「ヒッ!……… ……な、なんちゅう雑誌て………。アノ、週刊ウワサ、ゆう雑誌ですわ………」
「……………………。…………」
「………な、………なんだんねん、一体………」
「……エロいんか、それ」
「…………は?」
「……エロいんか、ちゅうてんのじゃ。その雑誌」
「…………………はぁ。それはもう………」
「それはもう、なんやねん」
「…………それはもう、………その、えらいこっちゃですわ……」
「………………そ、……………そんなになんか」
「……………えぇ………。それはもう……。… ……果てしなく、えらいこっちゃですわ」
「………………。………そ、そんなにエロいんか…………(ゴクリ)」
「わたい今、ちょっと奇声上げてたでっしゃろ」
「………ほぉ」
「…………………、この中身が、あんまりにもエゲツないモンやさかい、さすがのわたしも見てられしまへんで、大声出してしもうたんですわ………」
「…………マ、マジか……………」
「正直、とてもこの世の物とは思えまへん」
「……………………。……チョ、チョット………、おれにも見してくれへんか?」
「……………………。……………」
「………ちょー、…おれにも見してくれや」
「………………わたいのやのぅて、他の新品探したらえぇやないですか」
「…………今探してみたけど、他の新品は、もう売り切れてないみたいや」
「………そりゃそうでしょうな。大人気の雑誌ですからな、この雑誌(ウソやウソやッ!…ほんまはこの週刊ウワサ、超マイナー雑誌やから、ワシが店長に頼んでほんの数冊だけ入荷してもろとるんじゃ……。………しかしなんかオモロイ事になってきたナ…。………ちょっとコイツからこうたろ)
「マ、マジかいな。……ほなら、ちょっとお前が持ってるヤツ、見せてくれや」
「………。…イヤです」
「な、なんでやねん」
「だって今わたし、読んでるとこですから」
「え、えぇがな、チョットくらい…。…お前どうせそれ、買ぅて自分家で読むんやろうがッ」
「………。…なんやウルサイですな、アンタ。わたしがこの雑誌どうしようが、アンタには関係ないがな。この商品は今わたしが持ってるんでっせ?…そりゃアンタの言うとおり、わたしこの雑誌買いますけどな。…ほなけど、今ちょっと中身の確認してますのんや。そやから端からゴチャゴチャゆわんとってくれますか」
「………そ、そんなことゆわんと、ちょっとくらい見してくれや…。……ちょっとくらい見せてくれても減らへんやろがいな…」
「………かなんなぁ。今一番エロいとこ見てる最中やのに…」
「い、一番エロいとこ見てるんかいな…」
「ハァ。それはもう、この世の物とは思われへんほどのエロさでっせ」
「…………(ゴクリ)」
「ちょっとページ開いてこうやって見てみるとぉー、…………おふぅッ………………」
「…………。………ど、どないやねん………」
「……スゴすぎて今ちょっと三途の川見えた」
「マジでかッ」
「………お子様にはちょいとシゲキが強すぎるかもしれへんナぁ………」
「……………だ、誰がお子様やねんッ」
「もうこの分野で達人の域のわたしでさえ、今ちょっと冥土が見えましたからなァ…。アンタみたいなボンボンやったら、ちょっとそりゃもう、一目みたら死んでまうかも分からへんで……」
「………………た、頼むワ、ホンマッ!ちょ、ちょっと、マジで頼むから、一瞬だけその本貸してェな……。頼むわおっちゃん」
「誰がおっちゃんやねんッ!!!まだ26でピチピチのドーテイ貴族じゃワシわッ!…お前ちょと舐めたことゆうてっと貸してやらんぞラァッ」
「ス、スンマヘンッ!………………どうか、頼んます、知らんお兄サン…」
「ちうか、今借りてどないすんねん」
「ソッコーで終わらすからッ」
「便所かけこむんかいッ!」
「ウン」
「かなんなぁ、このガキわ。… ……ちゅぅか、何でそんなにエロ雑誌に必死やねん」
「………………いや、おれんちアパートで、一部屋に家族三人で住んでるから、家ん中でエロ本なんか見れへんねん………」
「ショボッ」
「………かとゆうて、買うのも恥ずいし……」
「弱ッ!………。……… ……てか、お前ようそんなんで人様にエラそうに喋ってたなァ、エェッ!さっきもレジんとこで店員さんに文句ゆうてたし」
「………………はぁ………」
「今のお前はなぁ、アレじゃ。ゆうたら、人生レベル1じゃ。えぇ。分かってんのかコラ」
「……………………」
「ナぁ。ゆうたら、さっきは人生レベル35の店長に文句ゆうてたんやぞ。えぇ。レベル1のくせに。えぇ。ちったぁ恥を知れ恥を」
「……………すんまへん………」
「あの店員のお姉ちゃんなんかな、えぇ。…… ……そうやな。あのお姉ちゃんなんか、…………可愛い顔してるからな……。えぇ。…… …おそらくあれは多分、人生レベル56くらいやな…」
「56すかッ!」
「あぁ。ああ見えてな………実はもう、それはもう、えらいことになってんねんで…………もしかしたら56じゃきかんかもナ……………」
「…………(ゴクリ)」
「ちなみにわたいは、それはもう、とてつもないレベルやけどね」
「………………。…………………」
「………………。…………チェッ。しゃぁないやっちゃナぁ。…………。ホラッ。………ほたら、店の人に見つからんように便所もっていけや」
「あッ!ありがとうございますッ!!」
「若さに任せてカキすぎんなよッ。…………正味なハナシ血ィ出るからナ………」
「…………………。………………………………」
「って、もう居てないがな。エェ。早すぎるがな。………………しかし、なんじゃアイツ。オモロイやっちゃなァ……。えぇ。エロ本一つであないに必死になるか?笑かすでホンマ。…… ……見た目イカツイくせに、エェ。ホンマ元気なアホやで…………」
「ピンポーン」
「………………。………………アラ。今度はなんか、丸坊主のやんちゃそうなんが入ってきたで。なんじゃいな………。……………。………なんやレジに直行していったぞ」
「すんませんすんませーん」
「…………………。…………なんじゃいな。また店長と女の子、奥に引っ込んでるがな。…………かなんなぁ、ホンマ。別にワタシ、他人の不倫をゴチャゴチャ言わんけどな。しゃーけど、仕事中に奥でゴソゴソすんのやめてくれへんかなぁ………。本人らはバレてへんつもりか知らんけど、いっつもスガスガしい顔して出てくるから、こっちがなんや恥ずかしい気ィしてくるねんし…………」
「……………………。…………………」
「のう、ホンッマ。独身貴族のワタシの身にもなってくれっちゅうねん。エェッ。……こんなエロ雑誌で自分を慰めるしかできへん、か弱い男子に、もっと優しくしてくれっちゅうに。えぇ。世間様ってばよ」
「……………。………す、すんまへん……………」
「うわァッ!ビックリしたァッ!」
「…………す、すんまへん」
「…………な、なんですの一体」
「……あ、アノー、ここのコンビニに、金髪で赤のトレーナー着たイカツイヤツ来ませんでした?」
「…… ………居てるけど」
「ほんまですかッ!…………………、どこ、おるんですかね」
「今便所おるわ」
「…便所?」
「今一生懸命、自家発電中やから、そっとして上げた方がええで」
「……はッ!?………………ちぇッ。何をやってんねん、あの人………」
「なんか急いでんのかいな」
「……イヤ、あの、……マァ、こっちの事なんで、……チョット…」
「なんじゃいな。隠さんでもええがな」
「エー。……………いやァ…」
「ジブンら暴走族なんやろ」
「…マァ、そうです」
「抗争かなんかか」
「………………ハァ……」
「ほほぅ……。なるほどなるほど、話が見えてきたゾ。ほんで、あのゴリラみたいなヤツの力がいるっちう事やな。そうか。そりゃそうやな。いかにも強そうやもんナー、アイツ……」
「…イヤー。そのー。実はそうでもないんでス……」
「………へ?」
「……イヤ、その、そうでもないんですよ、あの人」
「………どうゆうこと?」
「いやその、あの人、そないに強ないんですよ、ああ見えて」
「そうなん?」
「かなりビビリやし」
「なんじゃそりゃ!威嚇だけなんかいな」
「そうなんです…」
「そういや、さっきも、店員にインネンつけてたけど、警察官の客に見つかって、えらい搾られてたで」
「エェーッ。……モゥ、すぐエエ格好すんねんから、ホンマ。チューボウかっちゅぅねん……」
「ジャンボフランクのフリーパスくれとか、分けの分からん事を店員にゆうて絡んでたみたい」
「ちょッ!マジで言いにきてたんスかッ!…アホや(笑)」
「案の定、店員さんにも相手にされてなかったみたいやけどナ……」
「天然すぎるッ……。ほんっまアホやナー、あのヒト……」
「なんか、変なヤツやな、アイツ」
「ネェ…。…………せやけど、あれでも一応、総長候補なんですワ……」
「………………」
「………………………」
「……………は!?……………総長候補?」
「ビックリするでしょ、ホンマ。……今は一応、候補ってカタチなんスけど、マァ、次の総長はあのヒトで大方キマリなんですわ」
「……… ……アレが次期総長なん?」
「ハァ」
「……………ケンカ弱いんやろ?」
「それはもう(笑)」
「…………………。…………………いや、それアカンやん!」
「はい(笑)」
「………イヤイヤイヤイヤ、そうじゃなくって………」
「……………ねぇ。……多分オレらの代でウチの族終わりちゃうか、ゆうて皆でゆうてるんですわ(笑)」
「そんな、終わりかもしれへんて。。………何でそんなノンキやねん、ジブンら」
「マァ、今オモロいスから」
「……………………。………………オォ、なんやジュン来てたんか」
「あ、アキさんッ!何してたんスかッ!もうすぐアイツら攻めてきますよッ!」
「やいやいやいやいゆうないな。…ウッサイなァお前は。ほやから、おれ用事あるゆうたやろがッ」
「何が用事ですかッ。ジャンボフランクのフリーパスとか、分けの分からんアホなことゆうて」
「な、何ィ!」
「総長会議に出るのがイヤで、分けの分からん理由作ってココに逃げて来たて、おれら皆知ってるんスよッ!アンタがどんなにイヤがっても、ウチは満場一致で次期総長アキさんでキマリなんスから!今から自覚持ってくれな困りますッ」
「なッ!………だ、誰も逃げてへんわッ」
「………………………」
「あ、そうやそうや!そんな事よりも、さっき偵察に行かしたユウとタクが、まだ帰ってきてへんのです…。それでアキさん至急呼んでこいゆうててゆわれて……」
「マジでかッ!ほんで、二人から、まだ連絡ないんか」
「はい…………」
「ヨッシャ。ほな、とりあえずアイツら探しに行くぞ。…………………大丈夫や。オレが行ったら、アイツらくらい、すぐ助けたるからな。もう心配せんでもエエぞ」
「ハイッ!」
「ヨッシャ。そうと決まったら、オレは先に行くでッ!!お前は後からついてこい!どうせおれのスピードにはついて来れへんねんからなッ。…………………あ、お兄ちゃん、この本ありがとうッ!」
「………おう。………レベルちょっとは上がったか」
「メチャクチャ上がったっちゅうねんッ!!………………レベル最強じゃッ!………ヨッシャ。ほな行くわッ!………シュッ!…………………。…………………。………………」
「………………なんかえらい走っていきよったで。店内で走ったらアブないがな。…………ほんでなんやあの走り方………。…てか、なんか気持ち悪い走り方やな……」
「………………。……………本人も気にしてるみたいですわ。走り方」
「あ、そうなんや。」
「………………………。………………………あ、熱ゥッ!!!!」
「…………………………なんか自動ドアのとこで一人で叫んでるけど」
「…………静電気…………。………溜まりやすい体質みたいで」
「…………………………………」
「……………………………」