「いやー、おもろかったなー」
「おもろかった」
「ほんまにおもろかった」
「今日も元気な松喬さん見れて良かった」
「うん良かった」
「いやいや、まだ死んでないから」
「まぁそりゃそうやねんけどね。」
「でも結構痩せたよね」
「お前らは!またそんな適当なことばっかりゆうて。」
「せやかて」
「お前ら一回松喬さんのホームページ見に行ってこい!ピンピンしてるわ。毎日律儀に日記更新してるしやな、病気の気の字もないわ」
「そりゃ元気なのに越したことはないわ。おれらはいっつもええ芸を見せてもろてんのやから」
「ほんまやで。あの人の芸いつまでも見てたいナー」
「あんな芸人おらへんでな。」
「そうや。あの人の酔っ払いに勝てるモンおらへんで」
「同感やわ。あれほんまにすごいな。なんかこう、周りがパァーっと明るうなるゆうか、ほんまにご陽気ってな言葉が似合うようなええ酔い方するよなァ」
「住吉駕籠はほんまに最高やな。いや、もう何回もゆうてるけど、ほんまにあれはすごい」
「一番、笑福亭の陽気さを体言してる人って気がするモンな」
「禁酒関所なんかその最たるものやがな」
「役人がなぁ!ションベン飲むとことかほんまわらける!」
「バッとこう、センスを広げてな。ほんで両手添えて、顎上げてちょっとずつ、最後はグーッって飲み干す。あの飲み方な、中々ないで。」
「ほんまやなぁ。おれあの人の芸見てたら思うけどな、おれこの先あの人の芸に勝てる奴出てこうへんのちゃうかって気になるわ。」
「それは言いすぎやわ。それぞれの落語家の特色っちゅうもんがあるやろ」
「笑福亭の中でってこと?」
「うん、そう」
「ああなるほどね」
「松喬の名前継げるような奴が出てくるんやろか、ってことやな」
「そうそう」
「そやなー。たしかにあの人の芸はほんまに落語の地の地、王道の王道を完璧にこなしてるモンな。中々あの人の面白さ超えるような奴は出てきそうもないな」
「そやねん。なんかもうあらゆるモンを兼ね備えてるやろ」
「飯もめちゃくちゃ旨そうに食べるやん。酒なんかそりゃもう旨そうに飲むし。見とるだけでヨダレ出てくるわほんま」
「酒の飲み方やったら、吉朝とか、べかこも上手やで」
「吉朝はないわー。飲み方がなんか下品やもん。食べ方もぺちゃぺちゃゆうし。」
「まぁ、確かにあの人の飯とか酒の食い方、結構これ見よがしやもんな」
「たしかに好き嫌いは分かれるよな、あの人の芸は。」
「シュッとしすぎってのはあるね。ご陽気成分がもっと欲しいっちゅうか」
「それはあなた、米朝師匠に喧嘩売ってるちゅうことかいな!」
「ご陽気成分て、それつまり阿呆っぽい陽気さってことやろ」
「そうそう」
「べかちゃんも上手やん。ちりとてちんなんか最高やで」
「枝雀わい」
「あれは只の阿呆やん」
「おれも。あの人あんま好かん。外れすぎてるからちゃうかな。やりすぎって感じ」
「あれがおもろいのやがな」
「ノーウェイブっちゅうところか?」
「そうでもないけど」
「そういや、この前テレビで吉弥がちりとてちんやってたの見たけどな。あれあんまようなかったわ」
「あ、おれも見た見た。やっぱあの作りはべかこ専用やな。ほかの人がやったら難しいわ」
「いや、だって吉朝のモンやん。吉弥って」
「いやだからお前は米朝師匠ディスってんのかって」
「テレビ出てるタレントの印象が強いけど、べかちゃんもざこばもおもろいね」
「前に神戸の風月堂の恋雅亭でざこば見たけど、やっぱ人の入りすごかったわ。ほんでおもろかった」
「ざこばは枕長すぎやけどな。まぁ落語家はテレビ出てる人でも皆おもろいね。」
「うん。きん枝も結構おもろいしな。青菜おもろかったし。阿呆やけど」
「あ、そうそう、阿呆で思い出したけど」
「うん?」
「嫁さん元気か」
「阿呆で思いだすない。阿呆やけど」
「喧嘩仲直りしたんかいな」
「まぁ別にいつも通りやで。うちは喧嘩してもそないデカならんねん。愛があるから」
「チェッ」
「チェッ」
「なんやねん」
「おれらに愛とか戯けたことゆってっと張っ倒すぞこらぁ!」
「二次元が一番ええねんおれらは」
「らってゆうな!おれってゆえ」
「そういや、北川景子どうなってん」
「北川景子って何?」
「受付に北川景子にめちゃくちゃ似てる女の子居てるんやて!」
「あー、それかぁ」
「どないやねん」
「あんなもんなぁ、営業の色黒スポーツマンに即効落とされてたわ!」
「・・・そうか」
「なんやねん!世の中の女は皆あんな男が好きなんか!知能の欠片もなさそうな軽薄そうな奴がよう!」
「だから二次元にしておけとおれはあれほど…」
「いや、しゃあないって。また次行ったらええねん」
「お前になぁ、一人身の悲しさがわかってたまるかぁ。学生時代から女の子途切れたことない奴なんかになぁ、おれのキモチなんかわかるかぁ!」
「うん、そうかそうか。わかる。おれにはお前の気持ちが痛いほどわかる。わかるからな、おれが一番ええ方法教えてやるから。まずな、パソコンの電源入れてな…」
「うるさい二次元オタク!おれに触るな!」
「ちょ!ちょっと今リアルに傷ついたんですけど…」
「ごめん言い過ぎた」
「いや、だからってお前、風俗ばっか行くのは関心せんな」
「しゃあないやろ。今ええ子おんねや」
「遊びに行くのはええとは思うけど、お前のめり込んでるやん」
「深キョンによう似ためちゃくちゃ愛想ええ子がおるんやわ。あーかわええなぁ、アイコちゃん…」
「そやけどな…」
「うるさいわい!お前みたいにな、心の安住があるような境遇やないんやでおれは。彼女もいてない、家帰っても誰もいてない、この乾ききった心とアスファルトジャングルの真ん中で、どうやってまともに生きていけっちゅうねん!今おれの中ではアイコちゃんだけが生きがいなんじゃ!」
「ちょっと待ってや!おれにとって異次元みたいな会話やめてくれる?!」
少し向こうの席に、今時の女の子が座る。キャミソールとミニスカート。髪の長いストレート。
「・・・・」
「・・・」
「・・・・・」
「・・・ええな」
「・・・・かわいいな」
「・・・・・うん。この季節には、夢があるな。・・・って、おい!お前二次元ラブやろが!三次元に入ってくるな!」
「ちょ!リアルに傷つくんですけど!」
「まぁまぁ、やめえやお前ら。」
「お前だってなー、今見てたで。ええなぁ、ゆうて。阿呆みたいな顔して。それが既婚者のする顔か」
「別にええがな、かわいいなーゆうたって。かわいいもんはかわいいからな。かわいいは正義じゃなかったっけ?」
「まったく同感です」
「あかんで、お前ら。よそに浮気目してるような奴が、あの子のことそんないやらしい目で見たらあかんで」
「え、お前誰」
「誰って、まぁ誰でもないけど」
[ストーカーっちうやつやね。きもちわる」
「ちょ!誰がストーカーやねん。…あーあ、誰もおれの気持ちなんかわかってくれる奴いてへんのやろうなぁ」
「いや、だからここにおりますって」
「そんなもんな、深キョン似の女の子に、またきてなってチュッってされたら、お前、お前、そんなもん、無視できる男がおったらなぁ、おらぁいっぺん、そんな奴拝んでみたいわ」
「お前、お前って二回ゆうとことか」
「すんごい実感こもってたね」
「でもたしかに、男を魅了する女ってええよね」
「あ、あのCMええやん。あの、小雪の出てるやつ」
「あ、おぎやはぎの奴か」
「あ、いいいい!あれいいよな。みんな小雪に見とれててな。なんかいいよねあれ」
「なんか、絶対に届かへん、憧れの対象って感じのね。なんか、遠くからずっと見てたいような」
「うんうん。アイドルみてる感じなんやろな。感覚的に。」
「大友のさよなら日本に収録されてる一個目なんやっけ、題名…」
「あ、飲み屋のばあさんが昔はマドンナやったってやつか」
「ああ、ああ、あったなぁそんなん」
「あれたしか、題名は英語やったで」
「あ、英語か。あの話もたしか、みんなの憧れの的とか、そんな話やったやろ」
「そうそう。あれもええよなー。うん。」
「その深キョンって、どこの女なん?」
「飛田や」
「飛田かよ!それ初耳やぞ。」
「そうゆう風に言われるから黙ってたんや。高いのは重々承知してるがな」
「飛田って高いんか」
「ちょんの間やけど安くはないな」
「お前もうちょい自制しとけって。エロ動画やったらおれがタラフクやるから」
「ええねん!ほっといてくれ」
「なんか、ホストにはまる女みたいな奴やなぁ」
「でもそんなに可愛い子おるんやったら、おれも一回行ってみたいなぁ」
「お前は妖怪通りでも行っとけ!」
「妖怪通りって?」
「(笑)」
若い店員「お水いかがですか?」
今時の可愛い感じの女の子。
「あ、いただきます」
「おれもくださーい」
「・・・」
「そちらの方はどうですか?」
「おい」
「・・・」
「なにみとれてんねん」
「どうですか?」
「こら、ええ加減にせえ!」
ペチッ
「あいたッ。あ、ハイ、いただきます」
「うふふ」
「・・・・。あ、ありがとう」
「・・・・どないしてん急に」
「・・・・」
「・・・なんやこいつ」
「あのな、おまえさぁ、」
「うん?」
「もし今、菅野美穂が告ってきたらどうする?」
「は?」
「今今。嫁さんおるけど」
「うーん、菅野美穂行くかな」
「なんでやねん」
「いや、もうゆうてあるもん。すまんけど、石原さとみが告って来たら、すまんな、ゆうて」
「なんやそれ。嫁さんは?」
「ええよってゆうてる。」
「変な嫁さんやな」
「その代わり嫁もそうするってゆうてる」
[嫁さんは誰がええの」
「バクチクの今井やって」
「ぷ!わらかしよんな!」
「・・・・そうか。やはりおれの直感は信じるべきやねんな。」
「だからおれらはお前の言ってることがさっぱり理解できへんのやけれども」
「つまり二次元最高ってこと?」
「おれは今から風俗をキッパリやめるで!」
「だからなんやねん一体…」
「おれはつい今、恋に落ちた。」
「は?」
「つい今って、あの店員さんかいな」
「そうや。これはもう、きっと運命やったんやわ。うん。だって、繁盛亭のこんな近くに喫茶店があるやなんて、繁盛亭のお客が来るに決まってるやん。おれらが落語見終わって、この喫茶店に入り浸ることなんか、きっと必然的な出来事やったんや。そして、こんな場所でアルバイトを始めようと決めたあの子にも、きっとなんらかの大事な理由があるねんきっと!」
「おいおい、なんかおれより妄想ひどい人がおるでここに」
「まぁ別に誰好きになろうとお前の勝手やけど、あんまり人様の迷惑になるようなことだけはせんといてな。おれらの迷惑になることもあかんで。」
「お前らもっとおれの恋を応援してくれよ!いや、おれは決めたで。おれはあの女の子に告白する。あ、いや、告白はなんぼなんでもちょっとやりすぎやから、まずは友達になってくださいゆうて、話してみるわ」
「うん。まぁ、それが一番現実的やがな。やってみたらええやん」
「おっしゃ、ほな、ちょい今からメール渡すで!あードキドキする」
「なんか、今配達行っておらへんな。」
「あれ。ほんまや」
「あ、ちょうど今帰ってきはったで。ちょっと、店員さん!ちょっとちょっと」
「・・・はい。」
「あ、あのー・・・」
「・・・・・?」
「あの・・・・カフェオレのおかわりを」
ペチッ
ペチッ
「・・・・(笑)?」
「あ、あの、それとですね、えーと、・・・あれ?」
「・・・・・?」
「店員さんめっちゃ汗かいてますやん」
「ほんまやね」
「・・・・あ、ああ、あのーさっき、ご近所に配達行ってまして、外暑かったんで・・」
「日曜やのに、大変やな」
「いいえー。あたし、汗かいて仕事するの気持ちいいから好きなんです」
「おー」
「めっちゃええ子やんかー」
「…へへへ」
「あ、ほいで、あのー、もし良かったらでええんやけど、おれと友達になってくれへんやろか」
「え?どういうことですか?」
「いや、そのなんつーか」
「お姉ちゃんに一目惚れしたんやて、こいつ」
「阿呆やねん」
「一目惚れ、ですか・・・。今でもあるんですね、こんなん」
「あ、あかん?」
「うーん・・・」
「お願いします!」
「完全に下手やな(笑)」
「うーん・・・・お客さんやしなー」
「お願いします!迷惑はかけません!」
「とかゆって!別にいいですよ!」
「お!」
「あら!」
「まじで!ほんまにええの?!」
「別にいいですよ。友達からだったら。私年上の人そんなにキライじゃないんです」
「や、や、やった!やった!」
「きもっ。手震えてるやん」
「うう、やった、やった。・・・やった」
「なんか泣いてるし」
「・・・ふふふ」
「・・・。はい、じゃあ、これ。よろしくお願いします」
「・・・・じゃあ、これが私のアドレスです」
「ええの!?」
「いいですよ(笑)では、まだ仕事中なんで…」
「ありがとう!ほんまにありがとう!!」
「だから、声でかいっちゅうねんお前」
ペチッ
「いやー、良かったな」
「良かったな。なんかいろいろ」
「・・・・・」
「なんか後ろで一人でニヤニヤしてるけど」
「・・・・」
「ええねん。どうせおれは二次元で。二次元と落語があったらええねんおれは」
「ほんまにこいつは繁盛亭さまさまやな。」
「落語家さまさまやろ」
「繁盛亭にも落語家にもケツ向けて寝られへんでほんまに」
「おーなんや君ら!!!辛気臭い顔して!ええ!もっとおもろい顔せんかい!!世の中はバラ色に満ち溢れてんで!ほれ見てみい!通天さんがよう見えるがな!」
「いや、みえへんし」
「ええねん、おれはラムちゃんさえおってくれたら」
「何をゆうてんねん!ええ!京橋花月なんかしょうもないモン作るくらいやったら、ミナミにもう一個繁盛亭作らんかい!桂文太最高!!!」
「なんで今文太なん」
「確かに素晴らしい落語家やけど」
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