朝起きたら巨大な秘密組織が世界を征服していた。おれはとても困ったので実家に相談の電話をかけると、丁度昨日みかんを送ったので食べておくようにと母から連絡を受けた。その後とりあえずコンビニに行って立ち読みをする事にした。某週刊誌を貪るように熟読していると、おれの大好きなグラビアアイドルが今月結婚するという記事が一面になって掲載されていた。おれは頭の中でそのグラビアアイドルと結婚する相手方を口汚く罵った。しかし大好きなグラビアアイドルへの不満は一切なかった。レジでポカリと総菜パンの代金を支払う際に、店員がおつりを手の平に落とすように渡してきた。そのせいで小銭が少し床に落ちた。おれはカッとなってグラビアアイドルの結婚や秘密組織の世界征服などそれまでのストレスを全て店員にぶつけて清々した。店員はというと切ないような顔をしながら困惑気味に「スミマセン」と言った。丁度そのおれに対しての非礼への詫びの言葉が終わるか終わらないかのところに被せるようにして、急遽編制された世界連合軍によって巨大な秘密組織が滅びたとの放送がラジオから流れた。おれの怒りは幾分か収まった。
コンビニから帰宅する途中、おれは道で何者かに突然ナイフで刺された。犯人は黒のストッキングを頭から被っていたので素顔は確認できなかった。刺された際、全ての視界に映るものがスローモーションに見えた。徐々に自分の身体が倒れていくのがとても長い時間に感じた。時計を見てみると秒針が1秒進むのに5秒くらい掛かっていた。
病院で治療を受け数ヶ月の後完治退院したおれは生涯を地下で過ごすことに決めた。地下で暮らし始めてから二日目、携帯が妙になるのでおかしいなと確認してみると電源が入ったままだった。着信は以前価値観の相違から喧嘩別れした恋人からだった。用件を聞くと地下でもう一度自分と暮らさないかという、遠回しに元さやを仄めかす申し出だった。なぜ今更そんな事を言うのかと語気を荒げて元恋人を問いただしてみると、どうやら地上ではすでに別の第二の巨大な秘密組織が世界を席巻征服しているとのことだった。おれは元恋人の申し出を丁重に断った。次の日恋人が秘密組織にさらわれて殺害されたことがニュースになっていた。
地下で暮らし始めて五年ほどすぎた。地下は思いのほか過ごし易いものだった。おれは地下の暮らしに何の不満も感じた事はなかった。そんなある日、地上に出てみようという考えがふと思い浮かんだ理由は生まれもっての単なる好奇心からだった。おれは地下から地上に抜ける唯一の交通手段であるとても長いハシゴを五時間かけて上りきった。地上に出た頃にはおれは大層疲弊しきっており、そんな状態のところを、ハシゴを上りきった地上でここぞとばかりに待ち伏せをしていた第二の巨大な秘密組織の兵に拉致された。もう抗う力は残っていなかった。
第二の巨大な秘密組織が利用する中古のワゴンに乗せられ、おれはとある人里離れた農村に連れていかれた。そこではとうもろこしを栽培していた。これを海外に輸出して組織の大事な潤滑油である軍資金にするのだと言う。そのように第二の巨大な秘密組織の兵は言った。そして第二の巨大な秘密組織にはその頂点に君臨する皇帝の直近に、六人の近衛兵ともいうべき最強の六魔人と謳われる恐ろしい手練がいる事も教えてくれた。おれはその内部極秘情報の提供に対して英語で「サンキュー」とお礼を述べた。第二の巨大な秘密組織の兵は静かに頷き小さな声で「アーハン」と言ったが、心なしかその頬は思春期のような桜色に染まっていた。それから二日後、すでに水面下で活動を開始していた世界連合軍の華麗なる活躍によって第二の巨大な秘密組織は滅びた。丹精込めて育てていたとうもろこしは各々持って帰る事が許された。世界連合軍はその夜、前回と同様にそれは豪勢で豪奢なパーティを開催しその日の武勇を肴にいつまでも宴をやめなかった。戦士たちは互いの勇士と愛国を賛美しあった。そうした喧噪の裏では国家間の闇取り引きがひっきりなしに行われていた。
おれは育てたとうもろこしを試しに海外に出荷してみた。するとこれが驚くような巨万の富を生んだ。おれはそれを元手に大手チェーン店を買収し、更に政界にも幾つものコネクションを張り巡らす画策をした。それらは全て順調に進行した。四年後、おれは一生を豪遊に明け暮れても使い切る事の出来ない富を手にしていた。そんな折友人からの誘いで無人島に旅行に行った。その島には一つの大きな休火山があり、皆でその山を登山した。その際おれは頂上近くで足を踏み外し、ものすごい勢いで転落していった。地面にものすごい勢いで叩き付けられそうな寸前で、おれはそのときすでにサイキックに目覚めていた。その驚異的な力によって危機は全力で回避され、またそれらの諸々が原因で地球の地軸がわずかにずれた。
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