「よっしゃ。住人がマンション入っていきよる。。あれについて行ったら中は入れるわ。いそげいそげ。…… … ……よし、なんとかオートロックはクリアしたな。……うわァ。。それにしても、やっぱり中のロビーめちゃくちゃ広いなァ。そりゃこんだけ広いねんから、外観もデカいビルに決まってるわ。ほぇー。ロビーの脇には大層な花壇があるがな。赤やら黄やら色んな花がチーンと植えたある。えらいモンやで、えぇ。手入れもチャント行き届いてるがな。ほぉ、なるほどな。さすが難波のど真ん中にデーンと建ってる、家賃20万からのタワーマンションなだけあるなぁ。ここ住んでるヤツは、カタギのくせにえらい給料もろてんのやろなァ。これが世にゆうフユーソーちうやつか。カーッ。おれも一回そういう身分になってみたいモンやなぁ………。」
「……… ……ちょっと。…… ……モシ。ちょっと」
「…… ………それにしても大したモンやで、ほんま。えぇー………」
「モシ。ちょっと。アンタ。」
「……… …… ……」
「ちょっと。そこのアンタ。きょろきょろしてるそこのアンタや。これッ」
「……へ?!… ……あ、あぁ、……な、なんやなんや、わたいのことでっかっ。え。 ……… ……ちょ、なんやねんこのおっさんいきなり。え、もしかして、ここの管理人かなんかか?これは気づかなんだ。。かなんなァ…」
「ちょっとアンタ。うちのマンションで何してまんねん」
「へ?… ……え、いやいや、わたし、こ、ここの住人ですねんけど?今さっき仕事から帰ってきましたんや」
「こらこらこら。アンタ、ウソはいけませんで。えぇ。ワシここに勤めてもう10年以上になりますけどな。ここに住んでる住人さんのことは、ぜーんぶ頭に入ってますよってにな。そやから、誰がここの人か違うかぐらい、すぐに分かるんですわ。アンタの顔なんか、ワシ今日初めてみたがな。何をゆうてんねん。しらこい事ゆうてたらアカンでホンマ」
「え、い、いやいやいや、あのー、あのね。ちゃいますねん。あの、わたしがここの住人ゆうわけやなくってね、あのー、ここ、ここに住んでる人のね、身内ですねん。わたし」
「身内?あ、そうかいな。ほんでどこのお宅の身内で?」
「イヤー。あのね、あのー、なんつーか」
「アンタ、それもウソなんとちゃうやろな」
「いやいや、…これホンマ。あのー、あのね、あれですわ。ヤスダんとこの親戚なんですわ、わたし」
「ヤスダさんとこの親戚?ヤスダさんとこゆうたら、13階に住んでるヤスダさんかいな」
「そうそうそうそうッ!そうやねんッ。13階に住んでるヤスダんとこ。ワタシね、ヤスダのおじさんには、いっつもようしてもろててね。ほんで、今日も、ちょっと昔のお礼があったさかい、それを兼ねて寄らしてもろた、ゆうわけですわ」
「ほぉー。そうゆうわけかいな。それやったら、何も不思議ないゆうことですな」
「そうですねん。わたし、ここ今日初めてきたモンやさかいね、そやから、こんな大きなマンション来たんやけど、どこをどう行ったらええもンかいなー、思てね。ほんでキョロキョロしてたわけですわ。。」
「そうかいな。なるほどなるほど。事情はだいたい分かりました。…… ………そやけど、ほなら、さっきウチの住人さんの後からコソコソ入りなはったんわ、アレはなんでですかいな。インターホン押したらお宅の人出てくれるハズやのに」
「えッ!イヤー、えぇ?あ、あのー。それはね、それはあれですわ、そ、そうそう!どうやら家の人が居てなかったみたいでね!そやからインターホンも全然出てくれへんし。。どないしよかなー思て途方にくれてたところに、丁度、ここに住んでるおばちゃんが入りよったからね、まぁとりあえず入っとこうかなと……」
「あんたが今日来るゆうてるのに、家の人居てはらへんのかいな」
「え、アー、あの、うん。そうみたい、なんでやろうね。アレレ?チャーント連絡しといたのになァー。ハハハハ… ハハ……」
「……… ………ハァ。…… …なんちゅーか、アンタ。。」
「………… ………へ?……」
「たまーにね、おるんよ。アンタみたいな人が。なんやこっそりと、他人のマンション入ってきてね。……いや、何の目的かは知りまへんけどな。こっそりと入ってきて、訪問販売とかする輩がたまにおるんですよ。ここいらの人はお金持った奥様が多いですからな。ウマい事ゆうて物買うてもらおう思てるんでしょうな。せやけどね、まぁ、どこのマンションでも一緒やと思いますけどな、ウチんとこも、そうゆうのは一切お断りしてますのんや。ほやからな、アンタも、あんまりヤヤコしいことゆうてなはるとな、こっちもおまわりさん呼ぶことになるで」
「ちょ、ちょっと、おっさん、あんた何をゆうてんのや?おれはそうゆうのとちゃうて、さっきからゆうてるやろ!?ほやから、おれはね、ヤスダのおっちゃんのとこに会いにきただけ、ゆうてるやん。ちょっとお礼せなあかん事があって、そやから今日会いにきただけなんやがな」
「ヤスダさんに?」
「ほうやがな。あ、アー、おっちゃんに会うの楽しみやなァ……」
「13階の?」
「うんソウソウ…。ふーん、ほんま会うの久々やわァー」
「そんな人居てまへんで」
「楽しみやわなァ、ほんに。。」
「そやから、そんな人、居てぇしまへんで、ちゅうに」
「元気してんのかなー、ヤスダのおっちゃん………」
「そやからね、あんた。ヤスダさんちゅうて、そんな人、このマンションに居てぇしまへん、ちゅうてんねん」
「アァー、ヤスダのおっちゃんに会うの楽しみやなァ。ほんまに楽しみダァー…… ……… ……って、ええェッ!!!」
「ヤスダなんて人、13階どころか、このマンションのどこにも住んでへんゆうてんねん」
「え、そ、そんな、え、エェーッ!……… ……え、エエェーッ!!!」
「何をアンタ、一生懸命ウソの話並べくさって、マァよぅぺらぺらと。よっぽどウソつくのんが好きみたいですな」
「ちょ、ちょ、ちょーーー!……… ……お、おっさん、ほなあんた、おれにカマかけたんかぁ……き、汚いぞーッ!」
「なーにが汚いんじゃ。あんたが勝手にワシの話信じて、ぺらぺらウソ並べて一人で喋ってたんやないかい」
「そ、そんなモンなァ、そ、そんなもん、えぇッ、あ、あんなに話合わせられたら、そんなもん、こっちも調子に乗って喋ってしまうがなッ!」
「ハイハイ。なんや、よう知らんけどな。アンタみたいな若造に騙されるほど、ワシはまだ衰えてはいませんからな。……マァそやけど、アンタ一体ここに何しに来はったん。格好も別にスーツとか作業服でもないし。悪徳業者とは違うみたいやけど……」
「……… ………」
「もしかして、なんか個人的な理由でここに侵入しようとしてたんか?それやったら、こっちとしても、それなりの対応せなアカンよってにな。事件とかになるような事があったら、こっちも困りますのでね」
「ちょ、ちょっと、ケーサツとかは勘弁してくださいッ。どうか頼ンます…… ……………」
「それはアンタの出方次第やがな。……見たところ、アンタ今、30前か過ぎくらいか?まだアンタ若そうやし、さしずめここに彼女が住んでて、痴話喧嘩とかなんかか?それとも、誰かここに住んでる知り合いに恨みがあって、ほんで忍び込んで悪さしようとか考えてンのか?…」
「いや、ちゃいますッ!そうゆうのとは断じてちゃいますッ!」
「ほな、なんやねん」
「…… …………」
「あんたな、こんなに怪しい行動しとってな、ほんでダマーッてても家帰してもらえる思てたら、そら甘いで。世の中舐めてたらあかんで。もしな、このままお咎めなしに帰してやで。ほんで後日またアンタが悪さしにここ来るゆう事があったら、それこそワシの管理責任が問われるのじゃ。ワシはここの住人を安全に管理する義務があるんじゃ。そやからな、あんたが正直に物ゆうてくれるまでは、ここから帰さへんで」
「………。」
「分かったか?」
「…… ……………。………はい……」
「よっしゃ。ほなら、ちょっと管理人室行こか」
「………… …………」
※※※
「ほな、そこ座り」
「…… ………。……」
「えーっと、ほいで、えー。何君て呼んだらええんや」
「…… ………。……… ……えーっと、それは…」
「いやいや、心配せんでもええて。ワシが呼び易いから聞くだけやがな。あんたの身辺なんぞ調べようとか、そうゆうのとは違う」
「はぁ……、そうでっか。ほなら、その、わたし、サトウいいます…… …」
「サトウ君かよろしく。ワシはここの管理人やってます、イワイ、言います。どうぞよろしく」
「…… ……どうも」
「ほんでな、サトウ君。なんであんた、あんなしょうもないウソまでついて、ウチのマンションに入ったんや?なんぞ理由があったんやろ」
「…… …… ………」
「なんや、そないにゆわれへんような理由なんかいな。」
「……………」
「かなんなー。そんなに口固ぉ結びよるつもりやったら、ワシにはもうどうにも出来へんがな。。そんなんやったらほんまに、不審者ゆうことで、おまわりさんの方に連絡することになるで」
「そ、そんな、おれまだ何にもしてへんがな」
「まだ、てあんた、ほなやっぱりなんかするつもりやったんか」
「いや!ちゃいます。そうゆうつもりはありません」
「なんじゃいな、ややこしい人やなアンタは。ほな一体なんでやねん。その理由を話してみなさいて、ゆうてんのや。いやいや、そりゃ、不審者やからゆうて、すぐにおまわりさんが、どうこうしてくれるゆう訳ではないんやけどな、やっぱり管理人のワシとしては、万全を期すことが大事ですねん。アンタが何も話してくれへん以上、アンタを不審者扱いにして通報してもしゃぁないで」
「……… ………」
「あのな、アンタ見たところな、そんなに悪い人間には見えへんのや。ワシはそう思う。10年以上管理人してましたらな、住人を見てるだけで、その人がどんな人間か分かるようになりますのや。その人の表情やら、服装やら、歩き方やら。その人の人柄を知る情報は外見にもいっぱいある。そうゆうのを今まで散々見て来たワシが言うんやから間違いない。アンタはウソはつくけど、悪い人間ではない。そやから、このマンションに来たのんも、なんか事情があるんやろう。それを包み隠さずワシに話しておくれ」
「…… ………」
「………… ……あかんか?」
「………………いや、……あのー。ハイ。……ほな、……ちゃんと言いますわ」
「ほうか、チャント教えてくれるかッ。」
「はい。……………」
「ほなら、なんでこの見ず知らずのマンションにわざわざ入ってきたんや?」
「……………… ………見学ですねん」
「は?」
「…………いや、そやから、見学ですねん」
「………見学?………何のや」
「…………そやから、この大きなマンションの見学ですがな」
「……………いやいやいや。え、見学?マンションの見学て……。」
「そやから、その言葉通りの意味ですわ。おれ、このマンションの見学がしたいな、思て。ほんで、今日ついに思い切って、中に入ってみたんです」
「…………。……あんた、この後に及んでも、まだそんなチンケなウソつきなはるのか?」
「ウソやないんですッ!ホンマの事です!!」
「……………ビクッ」
「……………あ、すんまへん………」
「……………そ、そんな大きな声イキナリ出されたら、こっちもビックリするがな。」
「………………」
「え、エェー。マンションの見学?ワシそんなんゆう人初めて見たわ。。……いやいや、そりゃ、不動産屋さんの関係で、部屋見にくる人は居ますけどな。そやけど、あんた……。アンタのゆう見学ゆうんは、別に住むとかゆう目的ではないんやろ?」
「…………はい」
「けったいな人やなぁホンマ。自分が住むわけでもないマンションを見学したいやなんて…。一体なんでですねん。ちょっとその訳をワシに聞かしとぉくなはれ」
「……………」
「……………………」
「…………わたしね、家がね、このマンションの裏手にあるアパートですねん」
「……このマンションの裏のアパート、ゆうたら、三件くらいあるな」
「はい……。ワシの住んでるのはその内の、ワカサギゆうとこですわ」
「はぁはぁ。ありますあります。そうゆう名の二階建ての文化住宅ありますな」
「はい。そやから、いっつも、仕事から帰るときは、ここの隣の道、通ってたんです。このマンションを横目にしながら」
「はぁはぁ。」
「そないして生活して、もうかれこれ10何年になります」
「ほな何かい、あんたはこのマンションに、そんな昔から、なんらかのワダカマリみたいなモンがあった、ゆうことかいな」
「…………ワダカマリ………。………そうですな、そうゆうキモチもあったかもしれません。なんとゆうか、ここに住んでなはる人は、自分と全く違う生活をしてなはる。おんなじ地面の上に住んでるのに、たったの数十メートル離れてるだけで、人間の生活てのは、こないに違ぅてしまうんかなぁて、なんかよう考えてしもぉてね。」
「仕事の方はうまくいってますのんか」
「まぁ、仕事の方は、おかげさんで細々とやらしてもうてます。………そやけど、わたしには特別に夢中になれる趣味も女もないし……。ふとした瞬間に、なんかこう、世間て世知辛いなァ、思てしまって、あきませんわ」
「………………………」
「いやいや、そんなマイナスな事ばっかり考えてるんとちゃいますで。ここのマンションを見にきたのんは、そうゆうキモチとはちゃいますねん。」
「そうゆうキモチとちゃうて?」
「はぁ。あのー、ホンマ、今日このマンション見にきたんは、そうゆう暗いキモチゆうよりは、純粋に好奇心からなんですわ。………今までわたし、このマンションの横を通るたびに、なんとゆうか、人生の引け目みたいなモンを感じてたんです。平たくゆうと、負け組のキブンみたいなモンです。せやけどね、そうやってこのマンションを見てるたびに、気がついたんですわ。自分がこんなにここのマンションが気になるのは、やっぱりどっかで憧れてるとこがあるんやないか、ってね。………………それやったら、自分にはもう、到底届く事のないところやけど、しっかりと中身がどんなモンかを見てもうて、実際の姿ってのを、この目に刻んでしまおう、思いましてね。そうやって現実を目の当たりにしてしまえば、またそこから色んなキモチが生まれるんやないかなぁと。夢みたいな妄想をキッパリ諦めて、新しく生きて行けるんちゃうかな、とか……………。…………マァー、そんな事を考えてたんですわ。ハハハ…………。よう分からんでっしゃろ?わたしも自分でゆうてて分けが分かりませんわ。。………」
「………………」
「……………まぁ、理由ってゆわれると、こんなとこです」
「……………………」
「………………」
「アンタが…………」
「……………?」
「アンタがそないな事考えながらアパートに住んで、十何年経つゆうて」
「……………はぁ。そうです」
「……………」
「………」
「そうかいな………。………いや、あのな、最初にゆうたと思うけどな、ワシがな、この管理人の職についたのんも、丁度十年前くらいなんや」
「………はぁ」
「そうすると、ワシが職について今まで勤務してきた間、アンタはそないなこと思うて、十幾年過ごしてきたわけやな」
「……… …………」
「……………。あのな、ちょっと、私事ですまんのやけどな。ちょっとワシの話も聞いてもらいたい」
「………おっさんの話?」
「あぁ。…………、あのな、ワシな、もう今はこんなに老け込んでもうてね、マァ、今頃は、普通の勤め人やったら年金とか貰ろて、悠々自適な生活でもしてると思う。そうゆうわけにもいかんと何の因果か、この年までこうやって仕事せなアカン身分です。せやけどな、昔はな、これでもアンタの羨んでるような人間やったんやで」
「…………というと?」
「ウン、昔はな、ワシも大きな仕事当ててな、アンタがゆうようなええ生活をしてたんや。こうゆうビルにも、一つ部屋買うてたりした事もある」
「…………金持ちやったんですか」
「…………そこらにようある話やがな。ワシもそれに違わず、地方から出てきた一文無しの男やったよ。分けも分からず大阪に出て来て、そりゃ、あんたどころの話しやないで。出て来た当時はそれこそホンマ、右も左も分からずキョロキョロキョロキョロ。誰も知り合いがおらんこの街で、ワシみたいな田舎モンが生き残るには、そりゃもう、見つけた目の前の仕事を必死でやるしかなかったがな。」
「……………」
「せやけど、それのお陰で、バブルのせいもあってか、うまいこと世間の波にものれた。お金はよう稼げたし、それなりにも遊んだ。それこそ、あんたのゆうような生活をしてたがな。………あの頃はホンマに夢のようやった。」
「……………」
「ほなけどな、やっぱり、どんなに頑張っても、しょせん田舎モンは田舎モンやったんじゃ。他の遊び事忘れて、それよりも仕事に没頭してた事とか、元々賭け事みたいな事も一切せえへんかった。そうゆう、なんちゅうかな。ホンマの意味での世間擦れみたいなモンがワシには足りんかったんじゃな。都会きて何年おっても、やっぱりワシは青い田舎モンやったんじゃ。」
「………………」
「………そんなある時にな。知り合いに紹介されてな、先物取引に手ぇ出してしもうたんじゃ。…………。…………ほんで後は、これまた、ようある話やがな。ズルズルズルズル突っ込んでもうて、今まで稼いだ金がどんどん溶けていく。バブルははじける。それはもう悲惨なモンやったわ。借金めちゃくちゃこさえて、それに合わせて、家庭ものぅなった。………」
「……………」
「…………。まぁ、そうゆう話やねんけどな。…………… ………どうや?おかしかろう」
「…………いや、おかしいことおまへん」
「ハハハ。そうか?………… ……………ワシはなホンマ、おかしいと自分でも思うんじゃ。」
「………?………何がおかしいのか、わたしにはわかりませんわ」
「ハハハ。……………。…………ワシのな、今の仕事な。 そうゆう事があった後に就いた仕事なんじゃ。…………滑稽じゃろ?なぁ。……… ………あのな、ワシな。自分でもよう分からんのやけどな、多分ワシは、あの頃の事が忘れられへんかったんや。あの夢のような時代。…………。ほやからな、なんとゆうか、往生際が悪いとゆうか、ちょっとでもそうゆうカケラに触れていたいと思たんやろう。気づいたら、こうゆう高層マンションの管理人の職を探しててん。」
「…………。………」
「………… ………… ……………。…………ワシもあんたと一緒や。ワシも十年前からな、ずっとこのマンションに夢を見続けてたんじゃ。いつまでもここの住人とおんなじ空気吸いたいと思うてな。ここで仕事してここの住人のお世話をする事によって、ワシも昔そうやったみたいな、こっち側の住人みたな気になってた。そやけど、そんなことやってても、現実は全然違うんじゃ。家帰っても、身内も誰もおらん部屋に帰るだけじゃ。」
「…………… …………」
「アハハ。……… ………… ……いやいや、なんじゃろなぁ。………… ………なんかえらい、しおらしい話になってしもぉたな。なんでしょう。ワシもこんな話するつもりやなかったんやけどな、なんか、えらい説教くさなってしもうて…………。えらいすまんなサトウ君」
「………… ………いや、……とんでもないです」
「マァ、ワシの話なんかどうでもエエわ。アンタがどんなつもりなんかが分かっただけで、それでエエのんや。やっぱりワシが思うてたとおり、悪い人間やなかった、ゆうんだけで満足じゃ。」
「……… ………………ほなら……」
「ハァ。もちろんじゃ。お咎めは無しじゃ。とゆうても別にアンタは何を悪さしてるわけでもないしな。理由も正直に話してもろたし、こっちとしてはもう、何の疑問もありゃせん。」
「あ、ありがとうございますッ」
「……………うん。まぁええがな。」
「………………ほ、ほな…………わたし、忙しいんで、そろそろオイトマさしてもらいます」
「まぁまぁ、ちょっと待ちぃな、アンタ。こうやって知り合いになったのもなんかの縁じゃ。お昼ご飯まだ食べてへんやろ?…………大分時間経ってもぅたけど、今から出前頼むから、アンタも一緒に食べていきなはれ」
「……………え、…………い、いや、わたし、………いや、結構ですんで」
「なーにをゆうてんのじゃ。年寄りのお昼ご飯くらい付き合ってくれてもバチは当らんじゃろが。わざわざ頼んでんねんから、アンタもそれくらいのお愛想ないと、付き合いてなモンもウマく行きよらへんで」
「……………はぁ…………」
「ほな、アンタはカツ丼でええなッ!」
※※※
「………………………………………。…………………………………………。もうここらへんでエエかいな。………………………ハァー、疲れたァ…………。かなわんなぁ、年寄りの話は。ほんまに話長いねん。フーフ喧嘩は犬も食わんゆうけど、年寄りの話なんか便所ムシも食わんちゅうねん。……………。…………アー、しかし、ややこい爺ィやったわ。まぁなんとか怪しい思われずに済んだけどやで。………… ………………しかし、あのおっさんも阿呆やなぁ。何がスーツでも作業着でもないから悪徳業者と違うじゃ。スーツでも作業着でもない業者なんか、腐るほどいとぉるっちゅうねん。阿呆か(笑)よう、まぁあんなボンクラで管理人なんかしてるわ。おれらのええカモやでホンマ。しかもおれの作り話ゼーンブ信じとるし、救いようがないなァ。そりゃ先物なんかに手ぇ出すわ。……あんなモン、素人が損するように出来とるんやがな。……………ほんっまに馬鹿正直な情けないジーサンやで。……………。アーア。阿呆なクソ親と重なるわ。気分悪ゥ……。………。……。……………。カツ丼はウマかったナ。腹へってたし、丁度良かったわ。割りと美味しかったしな。あそこの店の名前、ちゃんと聞いとけば良かったわ。………。マァでも、もうあんな阿呆で話長いおっさんはウンザリやしな。あのマンションは避けとったろ。マサにらにもゆうとかなな、このマンションはペケや、ゆうて……………」
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