「シャチョー」
「なんや」
「この前頼んでたプログラム出来ましたって」
「プログラム、て、なんやったっけ」
「自動で送ってくれるやつ」
「はぁはぁ、いっぺんにメール送れるやつやな」
「はい。」
「ほうかほうか。ほなまぁ、あとは首尾ようしといて。…ほんで、ぎょうさん送れるゆうてたか?」
「そりゃもう、なんや自信作とかゆうて、えらい意気込んでましたで、キノシタさん」
「そりゃ、前のより改良しててもらわな。ほやけどそんなに自信あるゆうことは、ちょっとフッかけてきようか分からんな…。あのおっさん、ホンマこっちの足下みよんねんから。やらしいやっちゃで」
「まぁその辺は、ワタシがなんとか交渉してみますわ」
「おお、頼むわ」
「あ、そうそう、ヨコちゃんからね、昨日シャチョー帰った後に電話あったんですわ」
「はぁ。なんて?」
「いや、シャチョー、もうちょっと、なんかしたいゆうてましたやろ。別の業種でなんかしたいゆうて」
「ああ、ゆうてたけど」
「昨日ね、仕事のことでヨコちゃんから電話もろた時にね、そのことでちょい話してたんですわ。ほならね、ヨコちゃんのとこもね、どうやら、ちょいちょい新しい仕事してますねんて」
「え、そうなん?ワシあいつから、いっこもそんな話聞いてへんで」
「いや、このことはまだ全然ほかの人には話してへんて、ゆうてましたわ。まぁそりゃ、金にならんこと人に話てもしゃーないですからな。とりあえず、そこそこやってみて、ワタシらに話したかったんとちゃいますか」
「ほー、そうかいな。……ほやけど、ヨコのとこなんか、アダルトサイトで結構もうけてんとちゃうんかいな」
「いやいや、あの辺ももうあきまへんねんて。結構出尽くした感があるから。まぁほんでも、あの人のとこのサイトは割りと流行ってるから、それなりに儲けてるとは思いますけど。まぁウチとおんなじで、新しいこと始めたいんとちゃいますか。どこもそうや思いますけど」
「まぁな。ウチかて出会い系ばっかりやっててもしゃあないからな。ウチらみたいな業界はみな水モンやしな。… …え、ほんで、ヨコは何ゆうててん」
「はぁ、それがね、訪問販売ですねん」
「は?訪問販売?」
「はぁ。ジジババ狙て畳とか売りつけとうみたいですわ」
「タタミぃ?タタミて、またようわからんモン売りつけとうな。なんやそれ」
「いや、物は特にこだわってないんですって。タタミの他にも化粧品とかゆうてましたわ」
「はぁー。また中華囲って色々作らしてんのやな?」
「そこまでは聞いてまへんけど、多分そうちゃいまっか」
「へー。でもホンマ、今更やな」
「そうですねん。ワタシもさすがに聞き返しましたがな。訪問販売?ゆうて」
「ほんで、それ儲かってんのかいな」
「それなりに利益出てるみたいでっせ」
「ほんまかいなそれ(笑)適当にゆうてんちゃうん(笑)。そんなモン、ウチより危ないことやってるがな。ヘタしたらシャレならんで。それやしもう昔みたいとちゃうねんから、その辺の仕事ヤバいやろ。」
「いや、どうやらまだイケルみたいでっせ。一時期訪問販売ギャーギャーゆうてましたやろ。ほなけど、もう今テレビでもあんまゆわんようになってるから、警戒してへんオバンとか、結構いてるんですって」
「そうなんか」
「それなりに格好とかキチッとしてたら、すぐ買うみたいでっせ。オジンとかオバンて、寂しいからね、情に訴えたら割りとコロがるみたいですわ」
「そんなもんかいな」
「あとなんか、二三回は通たり、電話してやった方がええんですって」
「マジで?」
「はぁ。なんか信用させるためとかゆうてましたけど」
「えー、そんなんやったら割れてまうがな(笑)」
「ですね(笑)」
「なるほどなー。まぁ、オレオレとかはまだヤバいやろうけどな…。ほうかほうか…、昔のやり方でも、時間置いたらまだ出来たりすんねんなぁ」
「はい」
「訪問販売か…。なかなかのビジネスやなぁ。ちょっと考えてみるか」
「そうですね。… …えーっと、まぁ、そんなモンかな、シャチョーにゆうとく事は…」
「あ、今日は別にどこも行かへんから、かまへんで。またなんかあったら声かけてくれたら。ワシ部屋いてるから」
「はい、わかりました。… ……。…… …なんや、何してんねん」
「… …?…… ……」
「コラー!お前らデッカい声出すな。うるさいんじゃ。そっちで何やってんねん!」
「…… ………どないしてん」
「いやなんか、ユミちゃんらちゃいますか。えらい騒いでるみたいですね。なんやろ」
「何やってんねん。ちょう見に行ってみよか。……」
「はい…。………」
「………。……、おいユミ、お前ら何ギャーギャー騒いでんねん。仕事せんかぁ」
「あ、シャチョー(笑)」
「何をニヤニヤしてんねん。お前ら仕事せんとあかんやろ。さっさと客のポイント使わせんかいや」
「いや、あのね(笑)こいつこいつ!」
「あ、どないしてん」
「ちょっと、ブチョーもみてーや(笑)このタケルゆう男!」
「ん、どうしたんや」
「コイツな、めちゃくちゃアタシと会いたがっててな、ホンマウザかってん!」
「はぁ。ソイツどこの男?」
「山口」
「へぇ。そんなモン、適当にあしらっとけや」
「うん、そうやねんけどな。てか、そもそもあたし今使ってんの、岡山やねんけど」
「ほな適当に焦らしたらええやないか」
「あんまりウザイから、会う約束したった(笑)」
「は?ほな何かい、ソイツ、山口から岡山にわざわざ会いに来よるんかいな」
「そうそう(笑)」
「はぁー、そりゃご苦労なこって。かわいそうにのう。こっちは大阪おんのに」
「コイツほんまキモイねん!なんか、今どんなパンツはいてんのーとか、最近エッチしたのんいつ、とか根掘り葉掘り聞いてくるねんけど」
「そんなもん、別にソイツに限ったことちゃうやろーが」
「いやいや!なんか、コイツの聞き方とかホンマ超キモイねんから!なーリンちゃん!」
「うん、ほんまキモイでコイツ。ほんでな、アタシら、ほんま腹立ってきたから、ちょっとコケにしたろ思てな、」
「そうそう(笑)ほやから岡山よんだってん。」
「余計なことすんな」
「だってー」
「ほな、そいつ今一生懸命高速乗って来てんのかいな」
「そう(笑)ざまーみろやわ!」
「お前、そいつ退会してもうたらどうすんねん、アホか」
「でももうやってもうてんもーん」
「まぁ、もうええがな。やってもうたモンしゃーないわ」
「シャチョー、ちょっとコイツらに甘いですわ」
「イエーイ、イエーイ!」
「うるさいわ、アホ!」
「ハハ。まぁ、ちょっとは息抜きもええけど、他の奴はウマいことやってくれよ」
「さすがシャチョー!話分かるわー」
「調子にのんな」
「あ、そうそう、ブチョー」
「なんやリンちゃん」
「あたしのやってる奴で一人、金滞納してる奴おるで」
「お。どいつや」
「えーっと、… ……こいつこいつ。ユッピーってやつ」
「ほお。オッケー、分かった。ちょーそいつのIDメモっといてくれや」
「はーい」
「シャチョー。督促業者って今の時間帯いけましたっけ?」
「おう。大丈夫やで」
「分かりました。ほな、後から電話しときますわ」
「よっしゃ、頼むわ」
「…… ……あ、せやせや、あの書類も貰とかなアカンの忘れとった」
「……!、…ほんまや、ワシも忘れてた。ちょー、ワシの部屋取りに行こ」
「はい。………」
「…… …… ………」
「…………」
「…… ……」
「………… …………しつれいしまーす」
「おーう。……ちょー、そこ座っといて」
「はい」
「えーっと、……… ………。………ちょう待ってな。えー、あれぇ。どこ置いたっけなぁ……」
「…… ………」
「えー、…………。………お、あったあった。」
「しかしアレですなぁ」
「……?何がいな」
「いやね。督促のお兄ちゃんらも、大変やなぁ思て。」
「そうか?いっこも大変ちゃうわ」
「そうですかねぇ。いっつも怒鳴らなアカンし」
「大変なことあるかいな。アイツらあれが半分趣味みたいなモンやからな。」
「もう、あんなに怒鳴るん、ワタシやったらしんどいですわ。それやし、相手に何されるか分からんし」
「まーな。それが一番危ないからな。金払えへん奴とか、結構切羽詰まってる奴多いから。まぁ、そやから、ワシらだってそれだけの金払ろてんのやから。ちゃんと働いてもらわなこっちも困るわいね」
「そうですな。」
「まぁ、たしかにずっと気ぃはっとかなアカンのはシンドイけどな。」
「それやし、ワタシやったら、相手が怖いやつやったら、緊張して取り立てできるかどうか」
「それはお前、そんなモン、慣れやがな」
「そういうモンなんですか?」
「そりゃそうや、何でも慣れやで、そんなもん。」
「いやいや、あきまへんわワタシなんか。生まれてこの方、ノミの心臓やねんから。いっつもビクビクしながら暮らしてますわ」
「ハハ。大丈夫やっちゅうに。ワシだって勉強してんねんから。そう簡単には捕まるつもりはないで。あのな、ブチョー。こういう業界はイタチごっこみたいなモンやねんから。いつでも言い訳できるように、理論武装はしとかなアカンねんで。せめて、自分のケツは自分で拭けるようにしとかなな。ほやから、お前にもいっつも本貸したりしてるやろ。……ワシのゆう通り勉強しとったら大丈夫やから。」
「ハイ、ほんま、そうゆうとこは、シャチョーに世話なってます」
「いやいや、そんなに改まんなや(笑)あとは、そうやなぁ。緊張とか、そういう気持ちの面は、これはもうほんま、慣れしかないでやっぱり」
「そういうモンですかね」
「そうや。ワシかて会社作ってから、色々あってそういう経験で強なってきてんから。何も最初っから色んなこと知ってんのとちゃうで。顔は普通の顔してたけど、内心ビクビクしてたときも、そりゃあるわいな。…… ……、あれや、タイガーウッズおるやろ」
「タイガーウッズ?」
「おう。おれな、あいつ見てていっつも思うねんけどな、あいつこそ、ほんまに天才やねん」
「そりゃまぁ、ゴルフの才能は、とてつもないんとちゃいますか」
「いやいや、そういうこととちゃうねん。タイガーウッズってな、どんなものすごい大会に出ても、全ッ然緊張してへんやろ。いつもと同じような仕事を、ちゃんとキチーッとしよる。あれな、並の選手、というてもやで、世界で戦うような選手でもやで、やっぱりでっかい大会になったら、多少なりとも緊張するモンやないか。それが人間ってモンや。ほやけど、そもそも、アイツには緊張って概念がないんかもな。それかあれや、もう、ほんまにもう、通常の人間よりもよっぽど、心が強くて、そういうブレる心を抑えつける事ができるんか。なんにせよ、あれはもうとてつもない才能やと思うで。滅多におらん才能やわアレは。」
「なるほど」
「でも、そんなすごい人間は極めて稀やで。普通は緊張したり、動揺すんのが人間やわいな。」
「… ……なんか、そう言われると楽にモノ考えられるような気ぃします」
「そやろ。あんま気張ったらアカンで。考えすぎたらシンドイねんから」
「はい。ありがとうございます」
「おっしゃ。…… ……よし、ほな、はい書類」
「ありがとうございます。あ!シャチョー」
「おいおい、まだなんかあるんかいな(笑)」
「あ、いやいや、これは全然ちゃう話ですわ」
「何ぃ」
「ユミちゃんええコでしょ」
「ああ、そうやな。ええコやな。ブチョーの飲みに行ってたクラブのコやんな」
「まぁ、そうですわ。ワタシの知り合いの店のコですねんけど」
「ひとなつっこいし、可愛いし、ええんちゃう。人気あるやろ」
「そうですね。いや、ほんでね、そういやアイツ、今月で今おる家出ないかんとかゆうてましてね」
「ほお。なんでやねん。家賃払てへんのか」
「いや、ちゃいまんねん。なんか、女友達のとこに居候してるらしいんですけど、そろそろ出て行かなあかんらしいんですわ。」
「は?アイツ自分家住んでへんの?」
「はぁ。アイツ家ないんですって。なんやそうやって、知り合いの家渡り歩いて生活してるみたい」
「なんやそれ!アーバンジプシーゆうやつか」
「はぁ。ほんでね、どうしたらええんやろゆうて、この前世間話してましてんけどな。ほんで、そういえば、十三の方のシャチョーのマンション、今空いてるんでっしゃろ?ユミちゃん、住まわしてやってくれませんかね」
「アラアラ、なんじゃいなそれ。なんちゅう家なきコやねん。かなんな最近の若い女は。」
「はぁ、ほんまに。まぁ、そやけど、ユミちゃんもシャチョーの事気に行ってるみたいやし、丁度ええんとちゃうかなー思て」
「おいおい、ワシの都合ムシすんな」
「あ、いやいや、そういうつもりは」
「まぁ別にかまへんけどな。最近全然使てへんし」
「もうマリーの女とは切れましたしね」
「大きなお世話じゃ阿呆(笑)。オッケー。ええで。ほな、ワシから声かけとくわ。まぁ、今誰も使てへんし、気楽に使うてかまへんからな」
「おー。助かりますわ」
「おう。」
「有り難うございます、……、あ、ほな、そろそろ戻りますわ。失礼します」
「はいよ。」
「………… ……(部屋を出る)」
「はぁ。…… ……… ………さてと。………。……… ………あ、ちょっとヨコに電話しとこかな。……… ………… …………」
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