パチパチパチパチ。うう… …よかった、ほんまによかった。うう…。あぁ、よかったねぇ、マユミちゃん…。…………。うぅ…。…… …… ……、は?なんよあんた、ちょっと今ワタシ忙しいねんよ。うぅ…。よかったねぇ。よかったマユミちゃん…。ほんっまに良かった。おばちゃんほんまに嬉しいわ…。……、ちょ、っちょ、何よあんた、え?あの二人何してんのかって?何て、みた通りやないの、って、あんたちょっと邪魔。わたし今感動してるとこやねん、めちゃくちゃ感動してる最中やねんから、あんた、今わたしに話しかけんといて!……… ……、は?!もう、ひつこいやっちゃなぁあんたは。……え?一番品が良さそうやからアタシに聞いたの?アラ!ほー。アラそう、ほー。あんた中々見所あるやないの。え。そうでしょ。この人ら阿呆みたいな顔して、全然品のかけらもないやろ。あかんであんな人らに物聞いたら。ええ顔していろいろ教えてくれる思たら、いつの間にか通信販売の勧誘とかしだす人ばっかりやからね。な、そんな人に聞いたら、あんたみたいな優しそうな男の子なんか、一発で騙されてしまうんやさかい。ね、気ぃつけなあかんよほんま。そうかそうか、ほな、おばちゃんが教えてあげよ。ね、ほやけど、よう周り見たら、おっさんもおばはんも皆拍手してるね。笑てるね。そやなー。やっぱりええ話やもんなー。この場所におったら、そういう気持ちになるんやろなー。いやね、まぁ、あんた今来たところやから知らんと思うけど、ものの30分くらい前までは、この子ら喧嘩してたんよ。まぁ痴話喧嘩ゆう言葉はあるけど、この二人のはそんなもんでは収まらへん、えらい喧嘩や。ところでアンタ、今日は何しに来たん?天王寺動物園行こ思て?あらそう。ほたら、この二人と一緒やがな。この子らも天王寺動物園行こうとして、この入り口の前でこないに大喧嘩してたんやがな。へ?なんでそんなに知ってるかって?だってアタシここで店やってるからやないの。今日も昼間休憩やから店先で座ってお茶飲んでたんやがな。ほたらな、マユミちゃんとシゲヨシ君が歩いて来たんや。あー、今日は天王寺動物園行くんやなー思て、なんとなしに見てたら、ほらまた始まった。いつもの喧嘩や。いやいや、なんでわたしがマユミちゃんの事知ってるかゆうたらな、アパートの隣に彼女が住んでるんよ。ほやからもう、なんでも知ってんねん。隣から喧嘩の声聞こえてくる事もしょっちゅうや。ほんで、マユミちゃんから色々相談される事もようあるねん。うん。ほいでね、ほやから、わたしよう事情は知ってるんやけどね、まぁ、この話聞いたらもう、全員が全員、マユミちゃんの味方やと思うわ。うん、えぇ。いやいや、もう、どう考えてもシゲヨシ君が悪いんやわ。ほんまにこの男。だらしが無い甲斐性無い、すぐ浮気するわ借金するわ、中々働かんわで、もうマユミちゃんに世話になってばっかり。ええ。マユミちゃんは宗右衛門町でお水やってんねんけど、シゲヨシ君はもうヒモみたいなモンやな。えぇ。昼間からこの辺うろついて、立ち飲み屋でおっさんらとベラベラ喋ってるとこよう見るわ。ねぇ。マユミちゃんもあんな男のどこがええんかしらんけど…。ほなけど、まぁ性格はそんなに悪ないから、これまたタチが悪いんよね。道でアタシ見つけたら、「ユキちゃーん」とかゆって、アタシの方に近寄ってきて、パチンコで勝ったとかゆうて、桃の缶詰いっぱいくれたりするし、なんちゅーか、憎まれへんとこがあるんよねぇ。うん。顔も中々男前やし、笑ろたら割りとかわいいし、あたしももうちょっと若かったらどうにかなってた… ……ってのはどうでもええ話やけど、なんてゆうか、憎みきれへんところがあるんよ。マユミちゃんはそういうとこで結構悩んでたみたい。うん。まぁ、具体的ゆうたらあれや、まぁ、賭け事でお金がなくなったら、マユミちゃんにお金をせびったりしてね、それも毎回結構な額やったみたい。マユミちゃんはそれでもお金は稼いだら出来るから、別にかまへんゆうて、お金は渡してたみたいやけど。あたしは勿論そんなんやめとき、ゆうたよ。そんなもん、相手を甘やかすだけやねんから、絶対ええ事ないゆうて。ゆうてんねんけど、ほやけど、お金はずっと渡してた。まぁ、それはもう大負けに負けて、ええとしいな。惚れた女のする事やがな。ほなけどな。えぇ。アンタ!わたしもね、女です。若い時はお水してました。えぇ。ほなけどな、ええ、男の一番あかんとこはなんやと思う!?えぇ?あんた、男やったら、なんか分かるやろ?えぇ?あんた。なんやと思う?ちょっと答えてみいや。えぇ。うん。わーかーらーん????コラ。分からんとかゆうかあんた。カー!男はこれやからあかんねん、阿呆やねん。ケッ。そんなやから、女がいっつも泣かなあかんねん。可哀相な役するんはいっつも女に押し付けられるねん。えぇ?!あんた。なんでそこまで尽くした女が泣かされる事がある?可哀相やとはおもわんのか?この阿呆!浮気やがな、浮気!女が一番悲しいのは、大好きな自分の惚れた男が浮気する事やがな。えぇ!ほんま、なんで男ってのはすぐに次から次へと浮気するんかね、ほんまに。あたしもお水の頃にはどんだけ泣かされたことか。ほんまに男は嘘ばっかしゆうねん。お前が一番好きや、お前みたいなええ女おらへん、お前といっつも一緒におりたい。あたしが真に受けてポーっとなってる次の日には、別の女におんなじ事ゆうてるって。一体どういう思考回路してんねやろゆうて、あたし昔、男のアタマん中見たろ思て、穴開けたるゆうてネジ回し持って男の家に押しかけた事あるがな。えぇ。ほんっまに、なんちゅーか、男の性欲ほど阿呆なモンはないと思うわ。いや、ほんでな、シゲヨシ君もそういう男と変わらんのやがな。マユミちゃんはな、シゲヨシ君が浮気する度に、あたしのところ来て泣いたがな、おばちゃん、なんで男ってあないにすぐ浮気するの?ゆうて。えぇ。男って、あたしがこんなに好きな気持ち、いっこも分かってへんのかな、ゆうて。えぇ。そんな事ゆうて、女の子がワタシの胸の中で泣くんやで。可哀相やとは思わんか?ええ!あんたも男やったらなぁ、こういう女の一途な気持ち、ちょっとは分かるようになれ!分かったか!… ……そうか。ほなよし。ほいでや、でもな、あたし、前に一回、あんまりにも酷いから、シゲヨシ君に一回、ゆうてやった事あるのんよ。いや、浮気の事をな。シゲヨシ君、あんた、マユミちゃんみたいな可愛らしいええ子、泣かしたらあかんで、ゆうて。あんたみたいな男、こんなに愛してくれてる女の子、他にいてへんのやで、ゆうて。ゆうてやったんよあたし。ほしたらな、シゲヨシ君、うーん、とか、ハァ、とか。なんか、バツが悪そうな顔しながら、遠慮がちにボソっと一言、知ってます、ゆうて。ほんでトボトボ帰っていったけどな。なんか、ちょっとションボリしてるように見えて、こっちが悪いような、なんかこう、変な気分やったわ。なんてゆうか、あの子は、こう、情けない男の典型なんやね。ほんでや、まぁ、二人の間柄ってのは大体こんなような感じなんやわ。んで、さっきの喧嘩の話に戻るんやけどな。突然、喧嘩が始まったんや。天王寺動物園の入り口の前で。どうやら、話聞いてたら、シゲヨシ君が別の女とこの動物園に来てる事が分かったみたいやねん。分かったというか、シゲヨシ君がポロっと喋ってもうたんやな、きっと。ほいで、その女ってのが、前からポツポツと浮気で名前が挙がってたヨウコって子らしいわ。そりゃ、そんなもん、マユミちゃんからしたら、気ぃ悪いはな、毎回毎回、そんな浮気相手の名前が出てきてやで、せっかくデート来てやで、そこでも知らん女の名前聞いて、ねぇ。ほやけど、ここで大きな喧嘩になってもた原因は、シゲヨシ君もシゲヨシ君で、言い分があったからで、どうやら、シゲヨシ君は、もうそのヨウコって女とは何にもないってゆうて、譲らへんかったからやねん。まぁ、たとえその浮気相手と今は何にもないからって、彼女とのデート中に浮気相手の名前出すのはデリカシーの欠片もない話やけどな。まぁでも、シゲヨシ君はシゲヨシ君の言い分があって、動物園の前でえらい口論が始まってん。ほいでな、その頃にはもう、だんだんと周りに野次馬が増えるわ。わたしら、こういうの、好きやからな。飲み屋やそこらで暇してる連中の、ええ見世物やがな。いつの間にか、ちっちゃい子供らまで、隣の花壇の端に座って見物するようになった。ほんで喧嘩の方はというと、マユミちゃんはもう、女の件では堪忍袋の尾が切れたんやろうな、いや、切れたどころの話と違うな、もう、袋自体が破裂してもうたみたいやわ。そりゃぁもう、えらい怒りようで、女の子がこんなに大きな声が出せるんかゆうくらいの、大きな声で、泣きながらシゲヨシ君を平手で何回も叩いた。シゲヨシ君はシゲヨシ君で、こっちも大きな声で弁解したり、怒鳴ったりしてる。さすがに手ぇは出さへんかったけどな。周りの人間は最初は面白半分で見てたんやけど、だんだんとなんてゆうか、マユミちゃんの悲痛な感じに気おされてきてな、ほんで、その場から立ち去る人もおったわ。私もちょっとこれはアカンと思て、どうしようか思たけど、心決めて止めに行こうと腰上げたんよ。ほならな。次の瞬間、シゲヨシ君が、突然土下座したん。あの汚い地面。ほれ。えぇ。あんなきちゃないとこの地面でやで。びっくりしたがな。土下座。ええ男が土下座するなんて、あたし、久しぶりに見たわ。シゲヨシ君がな、マユミちゃんに叩かれながらな、ゆっくりしゃがみ始めて、土下座してゆうてん。「おれと結婚してくれ」マユミちゃん見上げながら。ほんでな、わたしもびっくりしたんやけど、ポケットから婚約指輪出して!しかもそれが、結構ええ指輪やったんよ!えぇ。まさかそんなモン出てくる思わへんがな。今の今まで、喧嘩してたのに。これにはさすがにマユミちゃんも面食らったような顔してたがな。ハトが豆鉄砲食らったゆうの?まさにそんな顔。最初にマユミちゃん、は?!ってゆうたがな。そりゃそうや。ほんで、シゲヨシ君が指輪のケース開けながらゆうねん。夜勤で金貯めてこうた、ゆうて。いやね、あたしもその話マユミちゃんから聞いてたんよ。最近シゲヨシ君が夜中に出て行って帰ってこうへん、ゆうて。本人にどこ行ったか聞いても、全然答えよらんゆうて。また浮気でもしてるんちゃうか、って、マユミちゃんが心配そうにゆうから、あたしもなんか、可哀相なってな。あんまりそこまで気ぃまわさんとき。いらん事考えてあんたが体壊したらアカンやろ、アタシはそれが一番心配や、ゆうたんやけどな。悪いけど、ワタシはシゲヨシ君が絶対浮気してると思てた。多分また新しい浮気相手のとこ行ってるんやろうと思てた。ほやけど、一々そんな事に気ぃ回してたら、マユミちゃんが疲れて体壊してまうがな。世の中には知らん方がええ事もあるんや、思てな、ほんでそういう風にゆうといたんやけど…。ほなけど、どうやら今回はアタシの考えが間違ってたみたいやわ。ほんでな、ほやけど、マユミちゃんは中々信じへんの。アンタ、どこでそんなモンパクッて来たの?ゆうて。全然信じよらへんのよ。ほしたら、シゲヨシ君がゆうのよ。夜勤で金貯めてこうたんや!どこそこの奴に頼みこんで、仕事回してもらえるようにしたんや。ゆうて。そこでまたちょっと喧嘩するんよ。ほなけど、これは本当の喧嘩と違うみたい。見てる方が恥ずかしかったわね。マユミちゃん、恥ずかしかったんよ。だって、あんなに怒ってたのに、突然プロポーズされてね。そんなん、突然どんな顔したらええの、って感じやもんね。どこでそんなお金稼いだの!から始まって、あんたがそんなに仕事頑張るわけがない、あんたみたいなグウタラな奴が仕事続くわけがない。思いつく限りの文句を大声でゆうてね。ほなけど、その声も5分も経たん内に小さくなって、消えてもうたよ。後は今あんたが見た通り。二人で手ぇ繋いで、マユミちゃんが大泣きしてるん。そりゃあんた、拍手も自然に沸いて笑ろてまうがな。えぇ。こんな情けないことありますか。可愛らしい。うん。ホラ、あんたもせっかく来たんやから、手ぇ叩いて祝ってあげなさい。えぇ?そんなんより、動物園入りに来たのに、こんなんやったら入りにくいって?阿呆!そんなんやから男はデリカシーがないゆわれるんや!
2010年6月9日水曜日
天王寺動物園前
パチパチパチパチ。うう… …よかった、ほんまによかった。うう…。あぁ、よかったねぇ、マユミちゃん…。…………。うぅ…。…… …… ……、は?なんよあんた、ちょっと今ワタシ忙しいねんよ。うぅ…。よかったねぇ。よかったマユミちゃん…。ほんっまに良かった。おばちゃんほんまに嬉しいわ…。……、ちょ、っちょ、何よあんた、え?あの二人何してんのかって?何て、みた通りやないの、って、あんたちょっと邪魔。わたし今感動してるとこやねん、めちゃくちゃ感動してる最中やねんから、あんた、今わたしに話しかけんといて!……… ……、は?!もう、ひつこいやっちゃなぁあんたは。……え?一番品が良さそうやからアタシに聞いたの?アラ!ほー。アラそう、ほー。あんた中々見所あるやないの。え。そうでしょ。この人ら阿呆みたいな顔して、全然品のかけらもないやろ。あかんであんな人らに物聞いたら。ええ顔していろいろ教えてくれる思たら、いつの間にか通信販売の勧誘とかしだす人ばっかりやからね。な、そんな人に聞いたら、あんたみたいな優しそうな男の子なんか、一発で騙されてしまうんやさかい。ね、気ぃつけなあかんよほんま。そうかそうか、ほな、おばちゃんが教えてあげよ。ね、ほやけど、よう周り見たら、おっさんもおばはんも皆拍手してるね。笑てるね。そやなー。やっぱりええ話やもんなー。この場所におったら、そういう気持ちになるんやろなー。いやね、まぁ、あんた今来たところやから知らんと思うけど、ものの30分くらい前までは、この子ら喧嘩してたんよ。まぁ痴話喧嘩ゆう言葉はあるけど、この二人のはそんなもんでは収まらへん、えらい喧嘩や。ところでアンタ、今日は何しに来たん?天王寺動物園行こ思て?あらそう。ほたら、この二人と一緒やがな。この子らも天王寺動物園行こうとして、この入り口の前でこないに大喧嘩してたんやがな。へ?なんでそんなに知ってるかって?だってアタシここで店やってるからやないの。今日も昼間休憩やから店先で座ってお茶飲んでたんやがな。ほたらな、マユミちゃんとシゲヨシ君が歩いて来たんや。あー、今日は天王寺動物園行くんやなー思て、なんとなしに見てたら、ほらまた始まった。いつもの喧嘩や。いやいや、なんでわたしがマユミちゃんの事知ってるかゆうたらな、アパートの隣に彼女が住んでるんよ。ほやからもう、なんでも知ってんねん。隣から喧嘩の声聞こえてくる事もしょっちゅうや。ほんで、マユミちゃんから色々相談される事もようあるねん。うん。ほいでね、ほやから、わたしよう事情は知ってるんやけどね、まぁ、この話聞いたらもう、全員が全員、マユミちゃんの味方やと思うわ。うん、えぇ。いやいや、もう、どう考えてもシゲヨシ君が悪いんやわ。ほんまにこの男。だらしが無い甲斐性無い、すぐ浮気するわ借金するわ、中々働かんわで、もうマユミちゃんに世話になってばっかり。ええ。マユミちゃんは宗右衛門町でお水やってんねんけど、シゲヨシ君はもうヒモみたいなモンやな。えぇ。昼間からこの辺うろついて、立ち飲み屋でおっさんらとベラベラ喋ってるとこよう見るわ。ねぇ。マユミちゃんもあんな男のどこがええんかしらんけど…。ほなけど、まぁ性格はそんなに悪ないから、これまたタチが悪いんよね。道でアタシ見つけたら、「ユキちゃーん」とかゆって、アタシの方に近寄ってきて、パチンコで勝ったとかゆうて、桃の缶詰いっぱいくれたりするし、なんちゅーか、憎まれへんとこがあるんよねぇ。うん。顔も中々男前やし、笑ろたら割りとかわいいし、あたしももうちょっと若かったらどうにかなってた… ……ってのはどうでもええ話やけど、なんてゆうか、憎みきれへんところがあるんよ。マユミちゃんはそういうとこで結構悩んでたみたい。うん。まぁ、具体的ゆうたらあれや、まぁ、賭け事でお金がなくなったら、マユミちゃんにお金をせびったりしてね、それも毎回結構な額やったみたい。マユミちゃんはそれでもお金は稼いだら出来るから、別にかまへんゆうて、お金は渡してたみたいやけど。あたしは勿論そんなんやめとき、ゆうたよ。そんなもん、相手を甘やかすだけやねんから、絶対ええ事ないゆうて。ゆうてんねんけど、ほやけど、お金はずっと渡してた。まぁ、それはもう大負けに負けて、ええとしいな。惚れた女のする事やがな。ほなけどな。えぇ。アンタ!わたしもね、女です。若い時はお水してました。えぇ。ほなけどな、ええ、男の一番あかんとこはなんやと思う!?えぇ?あんた、男やったら、なんか分かるやろ?えぇ?あんた。なんやと思う?ちょっと答えてみいや。えぇ。うん。わーかーらーん????コラ。分からんとかゆうかあんた。カー!男はこれやからあかんねん、阿呆やねん。ケッ。そんなやから、女がいっつも泣かなあかんねん。可哀相な役するんはいっつも女に押し付けられるねん。えぇ?!あんた。なんでそこまで尽くした女が泣かされる事がある?可哀相やとはおもわんのか?この阿呆!浮気やがな、浮気!女が一番悲しいのは、大好きな自分の惚れた男が浮気する事やがな。えぇ!ほんま、なんで男ってのはすぐに次から次へと浮気するんかね、ほんまに。あたしもお水の頃にはどんだけ泣かされたことか。ほんまに男は嘘ばっかしゆうねん。お前が一番好きや、お前みたいなええ女おらへん、お前といっつも一緒におりたい。あたしが真に受けてポーっとなってる次の日には、別の女におんなじ事ゆうてるって。一体どういう思考回路してんねやろゆうて、あたし昔、男のアタマん中見たろ思て、穴開けたるゆうてネジ回し持って男の家に押しかけた事あるがな。えぇ。ほんっまに、なんちゅーか、男の性欲ほど阿呆なモンはないと思うわ。いや、ほんでな、シゲヨシ君もそういう男と変わらんのやがな。マユミちゃんはな、シゲヨシ君が浮気する度に、あたしのところ来て泣いたがな、おばちゃん、なんで男ってあないにすぐ浮気するの?ゆうて。えぇ。男って、あたしがこんなに好きな気持ち、いっこも分かってへんのかな、ゆうて。えぇ。そんな事ゆうて、女の子がワタシの胸の中で泣くんやで。可哀相やとは思わんか?ええ!あんたも男やったらなぁ、こういう女の一途な気持ち、ちょっとは分かるようになれ!分かったか!… ……そうか。ほなよし。ほいでや、でもな、あたし、前に一回、あんまりにも酷いから、シゲヨシ君に一回、ゆうてやった事あるのんよ。いや、浮気の事をな。シゲヨシ君、あんた、マユミちゃんみたいな可愛らしいええ子、泣かしたらあかんで、ゆうて。あんたみたいな男、こんなに愛してくれてる女の子、他にいてへんのやで、ゆうて。ゆうてやったんよあたし。ほしたらな、シゲヨシ君、うーん、とか、ハァ、とか。なんか、バツが悪そうな顔しながら、遠慮がちにボソっと一言、知ってます、ゆうて。ほんでトボトボ帰っていったけどな。なんか、ちょっとションボリしてるように見えて、こっちが悪いような、なんかこう、変な気分やったわ。なんてゆうか、あの子は、こう、情けない男の典型なんやね。ほんでや、まぁ、二人の間柄ってのは大体こんなような感じなんやわ。んで、さっきの喧嘩の話に戻るんやけどな。突然、喧嘩が始まったんや。天王寺動物園の入り口の前で。どうやら、話聞いてたら、シゲヨシ君が別の女とこの動物園に来てる事が分かったみたいやねん。分かったというか、シゲヨシ君がポロっと喋ってもうたんやな、きっと。ほいで、その女ってのが、前からポツポツと浮気で名前が挙がってたヨウコって子らしいわ。そりゃ、そんなもん、マユミちゃんからしたら、気ぃ悪いはな、毎回毎回、そんな浮気相手の名前が出てきてやで、せっかくデート来てやで、そこでも知らん女の名前聞いて、ねぇ。ほやけど、ここで大きな喧嘩になってもた原因は、シゲヨシ君もシゲヨシ君で、言い分があったからで、どうやら、シゲヨシ君は、もうそのヨウコって女とは何にもないってゆうて、譲らへんかったからやねん。まぁ、たとえその浮気相手と今は何にもないからって、彼女とのデート中に浮気相手の名前出すのはデリカシーの欠片もない話やけどな。まぁでも、シゲヨシ君はシゲヨシ君の言い分があって、動物園の前でえらい口論が始まってん。ほいでな、その頃にはもう、だんだんと周りに野次馬が増えるわ。わたしら、こういうの、好きやからな。飲み屋やそこらで暇してる連中の、ええ見世物やがな。いつの間にか、ちっちゃい子供らまで、隣の花壇の端に座って見物するようになった。ほんで喧嘩の方はというと、マユミちゃんはもう、女の件では堪忍袋の尾が切れたんやろうな、いや、切れたどころの話と違うな、もう、袋自体が破裂してもうたみたいやわ。そりゃぁもう、えらい怒りようで、女の子がこんなに大きな声が出せるんかゆうくらいの、大きな声で、泣きながらシゲヨシ君を平手で何回も叩いた。シゲヨシ君はシゲヨシ君で、こっちも大きな声で弁解したり、怒鳴ったりしてる。さすがに手ぇは出さへんかったけどな。周りの人間は最初は面白半分で見てたんやけど、だんだんとなんてゆうか、マユミちゃんの悲痛な感じに気おされてきてな、ほんで、その場から立ち去る人もおったわ。私もちょっとこれはアカンと思て、どうしようか思たけど、心決めて止めに行こうと腰上げたんよ。ほならな。次の瞬間、シゲヨシ君が、突然土下座したん。あの汚い地面。ほれ。えぇ。あんなきちゃないとこの地面でやで。びっくりしたがな。土下座。ええ男が土下座するなんて、あたし、久しぶりに見たわ。シゲヨシ君がな、マユミちゃんに叩かれながらな、ゆっくりしゃがみ始めて、土下座してゆうてん。「おれと結婚してくれ」マユミちゃん見上げながら。ほんでな、わたしもびっくりしたんやけど、ポケットから婚約指輪出して!しかもそれが、結構ええ指輪やったんよ!えぇ。まさかそんなモン出てくる思わへんがな。今の今まで、喧嘩してたのに。これにはさすがにマユミちゃんも面食らったような顔してたがな。ハトが豆鉄砲食らったゆうの?まさにそんな顔。最初にマユミちゃん、は?!ってゆうたがな。そりゃそうや。ほんで、シゲヨシ君が指輪のケース開けながらゆうねん。夜勤で金貯めてこうた、ゆうて。いやね、あたしもその話マユミちゃんから聞いてたんよ。最近シゲヨシ君が夜中に出て行って帰ってこうへん、ゆうて。本人にどこ行ったか聞いても、全然答えよらんゆうて。また浮気でもしてるんちゃうか、って、マユミちゃんが心配そうにゆうから、あたしもなんか、可哀相なってな。あんまりそこまで気ぃまわさんとき。いらん事考えてあんたが体壊したらアカンやろ、アタシはそれが一番心配や、ゆうたんやけどな。悪いけど、ワタシはシゲヨシ君が絶対浮気してると思てた。多分また新しい浮気相手のとこ行ってるんやろうと思てた。ほやけど、一々そんな事に気ぃ回してたら、マユミちゃんが疲れて体壊してまうがな。世の中には知らん方がええ事もあるんや、思てな、ほんでそういう風にゆうといたんやけど…。ほなけど、どうやら今回はアタシの考えが間違ってたみたいやわ。ほんでな、ほやけど、マユミちゃんは中々信じへんの。アンタ、どこでそんなモンパクッて来たの?ゆうて。全然信じよらへんのよ。ほしたら、シゲヨシ君がゆうのよ。夜勤で金貯めてこうたんや!どこそこの奴に頼みこんで、仕事回してもらえるようにしたんや。ゆうて。そこでまたちょっと喧嘩するんよ。ほなけど、これは本当の喧嘩と違うみたい。見てる方が恥ずかしかったわね。マユミちゃん、恥ずかしかったんよ。だって、あんなに怒ってたのに、突然プロポーズされてね。そんなん、突然どんな顔したらええの、って感じやもんね。どこでそんなお金稼いだの!から始まって、あんたがそんなに仕事頑張るわけがない、あんたみたいなグウタラな奴が仕事続くわけがない。思いつく限りの文句を大声でゆうてね。ほなけど、その声も5分も経たん内に小さくなって、消えてもうたよ。後は今あんたが見た通り。二人で手ぇ繋いで、マユミちゃんが大泣きしてるん。そりゃあんた、拍手も自然に沸いて笑ろてまうがな。えぇ。こんな情けないことありますか。可愛らしい。うん。ホラ、あんたもせっかく来たんやから、手ぇ叩いて祝ってあげなさい。えぇ?そんなんより、動物園入りに来たのに、こんなんやったら入りにくいって?阿呆!そんなんやから男はデリカシーがないゆわれるんや!
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